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監督の言葉 No.936

4月26日(現地時間25日)に開催された第93回アカデミー授賞式で『ノマドランド』のクロエ・ジャオが監督賞を受賞した。同賞の受賞は女性監督としては、『ハート・ロッカー』で2010年に受賞したキャスリン・ビグロー監督以来史上2人目で、アジア系女性監督としては初の快挙となった。

『ノマドランド』はジェシカ・ブルーダーが書いたノンフィクション『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』を原作に、リーマンショックを発端に経済危機で家を手放さざるを得なくなった高齢者たちが、車上生活をしながら仕事を求めて全米各地を旅する姿を描いた作品。時に厳しい気候条件など過酷な車上生活をリアルに見せつつ、ノマド仲間と触れ合う安らぎのひと時も描き、広大で美しい自然のなかで、生きることの希望も感じさせてくれる映画だ。監督賞のほかに作品賞、制作も兼ねているフランシス・マクドーマンドが主演女優賞を受賞している。

中国、北京で生まれたジャオ監督は、ロンドンの寄宿学校を経てアメリカに移り、ロスアンゼルスの高校を卒業、マウント・ホリヨーク大学で政治学を学んだ。いくつかの職を転々とした後、ニューヨーク大学大学院のティッシュ芸術学部で映像制作を学び、在学中に撮った初の長編映画が、2015年のサンダンス国際映画祭のインディペンデント・スピリット賞初監督長編作品賞を受賞。2017年には、怪我でロデオの道を絶たれたカウボーイの姿をドキュメンタリータッチで描いた映画『ザ・ライダー』を制作。これを観て感銘を受けたフランシス・マクドーマンドが本作の監督にオファーしたのだ。

ジャオ監督が受賞のスピーチで語ったのは、子供の頃に父と暗唱した中国の古典『三字経』に出てくる言葉「人之初 性本善」。「人は生まれながらに善人である」という意味のこの言葉は、彼女に大きな影響を与えたという。「今でも、これと正反対のことが真実ではないかと思えるような時でも、私はこの言葉を信じています。私は世界中どこへ行っても、常に人々の善良さと出会ってきたのです。どんなに難しくても、信念と勇気を持って、自身の善良さを持ち続け、お互いの善良さを手放さない人たちに贈る賞です。この賞はあなたたちのものです。あなたたちが私に前進する勇気を与えてくれるのです」。時に性善説を疑いたくなる日々を送っているなかで、勇気をもらえたスピーチだった。

まだ長編3作目のジャオ監督、今後の活躍が楽しみだ。