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『ボヘミアン・ラプソディ』 No.897

『ボヘミアン・ラプソディ』は、イギリスのロックバンド、クィーンのボーカル、フレディ・マーキュリーの半生を軸にクィーンの誕生から世界的なバンドになるまでを描いた伝記映画だ。クィーンを知らない人でも、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」、「伝説のチャンピオン」はサッカーやプロレスなどスポーツ番組やCMなどで頻繁に流れているので、誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。

実はこの作品、試写会での批評家たちの評価はあまり芳しくなかったそうだ。しかし、公開されると観客からは大きな支持を得て、日本では封切から3週目を迎えた11月25日までの累計動員は約166万人、累計興行収入23億3,610万円を達成、全世界累計興行収入は4億7,217万ドル(約533億円)に達し、音楽映画としては異例の大ヒットとなっている。

ロックにオペラを取り入れるなど、それまでのロックの概念を打ち破る数々の試みをしてきたクィーンの姿は、1970年代、’80年代に青春時代を過ごした人たちのみならず、若い世代の人たちにも共感を呼び、映画だけでなく、サントラをはじめ他のクィーンのCD、配信がチャートインするなど音楽アルバムの売れ行きも好調だという。

「史実と違う」「時系列が違う」という批判もあるようだが、クィーンのギタリスト、ブライアン・メイの「これは伝記映画ではなく、硬い岩から掘り出されたような、純粋なアートだ。家族や人間関係、希望に夢、悲嘆や失望、そして最後には勝利と達成感が、誰にとっても共感できるような物語として描かれている」(抜粋)というコメントで、すべて説明されている気がする。むしろ、ピークを「ライブエイド」のライブシーンに持っていった脚色と演出はすばらしく、観ている者の胸を熱くする。伝記というより、クィーンの伝説を描いた映画として観客は楽しんだに違いない。

フレディ・マーキュリーはタンザニアのザンジバル出身のペルシャ系インド人で、17歳の時ザンジバルの革命による混乱から逃れイギリスにやって来た。移民として差別を受け、特徴ある容姿でコンプレックスを持ち、LGBTだったフレディは才能を開花させることができたが、その裏では、どれほどの重圧があっただろうか。

HIVによる合併症で45歳の若さで亡くなってから30年近くたった今、天国のフレディに「差別の無い世の中になったよ」と、自信を持って言えない現状が悲しい。