日刊紙「信用情報」で人気のコラムを毎週お届けします

「夏越の祓え」 に No.874

今年も半年が経つ今月末、「夏越の祓え(なごしのはらえ)」として「茅の輪くぐり」を行う神社が近年増えている。正月の「年神様」に対し、作物の豊作や風水害、航海の安全、疫病の流行など天候を司る「水神様」をお迎えする本来れっきとした神事である。

境内に、茅(ちがや)の葉を巻いて作った直径6尺4寸(約194㎝)の大きな輪を吊るす。参拝客はその輪の中を、最初は左回りに「水無月の夏越の祓いする人は 千歳の命 延ぶというなり」と、次は右回りに「思ふこと みな尽きねとて麻の葉を 切りに切りても祓ひつるかな」、最後はもう一度左回りに「蘇民将来 蘇民将来」と唱えながら、「∞」の字を描くようにくぐる。すると厄難が退散し、無病息災になるという伝承だ。

昔、身分を隠した旅の途中で道に迷った素戔嗚尊(すさのうのみこと)が、蘇民将来に一夜の宿を頼んだ。快く迎え入れてくれた蘇民将来に、素戔嗚尊は帰り際、「災難を迎えた時は茅の輪を身に付けなさい」と教えた。その後疫病が流行ったとき、教えを実践した蘇民将来の家族は難を逃れることができた ―― 奈良時代編纂の「備後国風土記」に伝来が載る。

京都では「夏越の祓え」の日に、「水無月」と呼ばれる特別の和菓子を食べる風習が現在も残る。邪気払いの意味がある小豆の餡と、暑気払いの氷に見立てた白い外郎を重ねて三角形に切り出したシンプルな菓子だ。

そこへ今年は、新メニュー「夏越ごはん」が全国展開されるらしい。材料に厳格な決まりはないが、邪気を払うとされる赤い色のパプリカやニンジン、干しエビ、茅の輪を想起させる緑色のゴーヤやオクラ、インゲンなど、夏の食材をかき揚げにして、雑穀米や小豆ごはんなどに乗せ、その上から、百邪(健康な生活を妨げるさまざまな要因)を防ぐとされる生姜やレモンなどを使った下ろしだれを掛けて食べるのだ。

ただし、この「夏越ごはん」に歴史的謂れはない。米の消費拡大を目論む公益社団法人米穀安定供給確保支援機構が、2014年から始めたキャンペーンだからだ。それでも今年は、イオングループ、東急ストアなどのスーパー大手や、定食チェーン「やよい軒」、ミシュラン11年連続の和食名店「銀座うち山」などが乗っかる。

かつて関西の海苔問屋組合の発案で始まり、いまは節分の定番行事に根付いた「恵方巻き」と発想がほとんど同じの「夏越ごはん」 。悪いとは言わないが、せめて「夏越の祓え」本来の趣旨ぐらいは理解したうえで頂いたほうが、きっと美味しいと思う。