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「旬」を味わう No.914

旬のモノを食べると身体に良いといわれる。「旬とは生育環境が整った自然のなかで育てられ、もっとも成熟している時期」を指すため、その時期に収穫した食材は、いちばん栄養価が高くおいしいからだ。しかし、スーパーに行けばほとんどの食材が1年中手に入る昨今、どの食材が旬なのかわからないこともしばしば。食で感じる季節感もだんだん薄れてしまっているようだ。

日本人は昔から五感に訴える様々なものから四季を感じとっていた。それは初夏の風物を詠んだ「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」(山口素堂)という江戸時代の有名な俳句からも伺い知れる。

新しいもの好きの江戸っ子は、とりわけ旬の季節に先駆けて収穫する初物を好んだ。別名「はしり」とも呼ばれる初物は、縁起が良く、食べると寿命が75日延びるともいわれ人気をよんだ。筍、胡瓜、茄子、白魚、松茸など、数ある初物のなかでいちばんの人気だったのは、春から夏にかけて黒潮にのって太平洋沿岸を北上してくる「初鰹」。戦国時代の武将、北条氏綱が舟に鰹が跳びこんできたのを見て、「戦に勝つ魚」が舞い込んできたと喜んだ逸話から、縁起物としても重宝され、特に初鰹は高値で取引された。

初物を誰よりも早く食べるのが“粋”とした見栄っ張りの江戸っ子たちは、高価な初鰹を手に入れようと競いあったという。江戸後期の文人、大田南畝が書いた記録によれば、文化9年(1812年)に日本橋魚河岸に17本入荷した初鰹のうち6本は将軍家へ、3本は二両一分で料亭の八百善が買い入れ、8本は魚屋にわたり、その内の1本を歌舞伎役者の中村歌右衛門が三両で買い、大部屋の役者に振る舞ったとある。一両でそばが400杯食べられたというから、どれだけ高価だったことがわかるだろう。「まな板に 小判一枚 初鰹」(宝井其角)、「女房を 質に入れても 初鰹」という川柳からも当時の熱狂ぶりが想像できる。

季節を先取りするのも良いが、実は旬の盛りの方が断然おいしいし栄養も豊富、何よりも値段が安い。江戸っ子のように粋ではなくとも、出回ってきた旬の食材を食べることで季節の移り変わりを感じ、豊かな気持ちになることができる。

いまは初鰹、あさりやアジ、ホタルイカがおいしい。野菜では、アスパラや豆類が旬を迎え、夏野菜も出始めている。食卓に旬のモノを取り入れ季節を味わってみては?