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産業のコメ No.961

日本の稲作は、太古の地層から検出されたイネのプラント・オパール(小さなガラス状のもの)などから縄文時代後期に始まったといわれる。稲作の発達とともに人口が増え、生活・文化が形成されていった。日本人にとって、パワーの源である米だが、あらゆる産業の基盤となるものを“産業のコメ”という。それは、かつて日本の高度成長を支えてきた「鉄」だったが、いまは「半導体」を指す。

マイカー購入の際、納期が1年後というのが珍しくなくなった昨今、ディーラーのお詫びの決まり文句として「半導体が不足しているので」が定番になっている。ハイテク製品において必要不可欠なこの材料の不足は、価格上昇や深刻な出荷遅れをもたらす。

半導体とは、電気を通す金属などの「導体」と、電気を通さないゴムなどの「絶縁体」の中間の性質を持つ物質のことだが、シリコンなどを材料にしてつくられた集積回路を総称していうことも多い。その用途は、スマホ、パソコン、デジカメのほかにもテレビ、冷蔵庫、エアコン、ICカード、銀行のATM、自動車部品など、日常生活に必要なありとあらゆるものに活用されている。ドローンなど近代兵器の“脳”としても応用されており、後れを取ってはいけない分野だ。

とりわけ世界市場に向けて生産されるデジタル半導体は、回路の縮小化を軸に新しい技術の開発が絶え間なく行われている。数年ごとに行われる技術の世代交代によって、保有する主要な製造設備・装置の多くが陳腐化するため、製造業の中でも開発費と次の投資が膨大になるのが厄介なところだ。

かつて世界に覇を唱えた日本の半導体産業は、1980年代後半に世界1位だったが、現在そのシェアは大きく落ち込み、次世代技術開発でも後れを取っている。一方で台湾や韓国が半導体強国になった。LSI(大規模集積回路)の研究で定評がある豊橋技術科学大学の学長で工学博士の寺嶋一彦氏は、弊社のインタビュー(8月4日発行『夏季特集号』)のなかで「日本の半導体産業は周回遅れといわれている」と危機感を訴える一方で「受託生産世界最大手の企業が熊本県に進出するなど追い風もある」と期待を込める。

現在、台湾TSMCの巨大な工場が熊本県菊陽町にその姿を現し始めた。また北海道千歳市に計画されているRapidus(ラピダス)の大規模工場も、最先端技術を目指す官民連携の国家プロジェクトとして大きな注目を集めている。確かにいい風が吹いてきた。