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秋の風 No.836

台風18号が列島を縦断し、身を包む空気が秋のそれに入れ替わり始めた気がする。

○ あきかぜの ふきぬけゆくや 人の中(久保田万太郎) …… 平仮名を多用した優しい表現に、秋の涼やかさが伝わる。○ 淋しさに 飯をくふ也 秋の風(小林一茶) …… 62歳で2番目の妻と別れた後に詠まれた句。「酒を呑む」ではなく、あえて「飯をくふ」と詠んだ日常生活感に、かえって寂しさ、侘しさが漂う。

さらに著名な秋の句に「物言ヘば 唇寒し 秋の風」(松尾芭蕉)がある。ただし、その意味を、通説のように「口は災いの元」と解釈するのはたぶん間違いだと以前も本欄に書いた(2014年10月)。元禄9年刊「芭蕉庵小文庫」に載るこの句には「人の短(所)をいふ事なかれ」との前書きがあるが、そう書いたのは芭蕉本人ではなく門下の中村史邦。詩人の清水哲男氏は著書「増殖する俳句歳時記」で「約890に及ぶ芭蕉句に人生教訓的な句はなく、本句だけをそう解釈するのは不自然」(要約)と指摘する。

それよりも清水氏は「『唇』という言葉は江戸時代からあったが、体の部位を指す医術用語。それを俳句に使った芭蕉の感性が斬新で素晴らしい」と称える。

それからいま320余年。初秋に突然、東京・永田町界隈で局地的に吹き始めたのは「解散風」だ。安倍首相は、来週28日に召集予定の臨時国会の冒頭で衆議院を解散するかどうか、帰国後に判断するとの考えを18日に示した。

①内閣支持率が50%を回復した(産経・FNN合同世論調査) ②野党第1党の民進党で“離党ドミノ”が止まらない ③小池百合子・若狭勝両氏の連携による新党結成も準備がまだ整っていない、等々の“気圧配置”を見れば、「いま選挙したほうが自民党は議席を減らさないとの読みが成り立つ」(毎日新聞19日付「社説」要約)からだ。追い風が吹いているチャンスを逃すなという、さすがに政治屋慣れした目敏さである。

しかし、とりわけ今回の解散・総選挙は、自民党を柱とする与党勢力の党利党略ではないかとする論調がマスコミには多い。政府・与党に批判的な朝日新聞が19日付社説で「(解散する)大義がない」としただけなく、与党寄りの読売新聞も同日の社説で、「首相が解散権を行使して選挙に勝ち、重要政策を遂行する推進力を得ようとすることは理解できるが、具体的な争点を明示すべきだ」(要約)と注文を付けた。

国政に一体どんな風を吹かせられるか ―― 主役が私たちであることは間違いない。