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夏枯草 No.916

四季があるのは、地球が地軸を23.4℃傾けた状態で太陽の周りを1年かけて1周しているためだ。夏は太陽の位置が他の季節より高くなり、地表が太陽エネルギーをたくさん浴びるため暑くなり、冬はその逆になるので寒くなる。とりわけ日本は北緯24~45°に位置し、シベリア気団、オホーツク海気団、小笠原気団、揚子江気団など主要気団の影響を受けやすいため、より豊かな四季の変化を感じることができる。

春夏秋冬の四季は、12カ月をさらに半分にした二十四節気に分けられる。今年は6月22日が夏至。さらに7月7日に小暑、23日に大暑となって夏本番を迎える。

しかし日本の季節は、さらに細かく表現される。二十四の節気をそれぞれ三分割した七十二候の存在である。七十二候は二十四節気と同様、古代中国で考えられたとされるが、二十四節気は当時の定義が現在もそのまま使われているのに対し、七十二候は日本の気候風土に合わせてアレンジされ、江戸時代に「本朝七十二候」が、明治時代にさらに改訂された「略本暦」が考案され、現在も使われている。

2019年の七十二候は1月6日「芹乃栄(せりすなわちさかう)=芹が盛んに育つ頃」、10日「水泉動(しみずあたたかをふくむ)=地中で凍っていた和泉が動き始める頃」に始まり、6月22日「乃東枯(なつかれくさかるる)=夏枯草(かこそう)が枯れ始める」、27日「菖蒲華(菖蒲花咲く)=菖蒲(あやめ)が咲き始める」、7月2日「半夏生(烏柄杓(はんげしょうからすびしゃく)の花生ず)=田植えを終える季節」などと続いているが、中でもちょっと面白いのは「乃東枯」だ。

日本はいま、植物が次から次へと花を咲かせ、1年で最も彩り豊かな季節だ。

ところがそんな中、前年の暮れ近くから咲いていた花期をそろそろ終え、これから枯れて行こうとする珍しい花がある。それが、小さな紫の花を密集して付けるシソ科の正式名称「ウツボグサ」、俗に「夏枯草」と呼ばれる。「ウツボ」は、小さな花穂が、武士が弓矢を入れて背負った道具「靫(うつぼ)」に似ていることに由来する。

と言われても、よほど趣味の方でなければご存知ではない野草というより雑草の花なのだが、ネットか何かで写真を確かめたうえで、改めて自宅付近や通勤路の足元を気にして見てみると、「ああ、この花か」と気付く諸兄も少なくないはずだ。

足元の小さな花の変化を見逃さず、七十二候に「及東枯」と加えて季節感を汲み取ってきた繊細な感受性を、現代の私たちも、失ってはならないと思う。