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「しがらみ」の怖さ No.840

「明日香川 しがらみ渡し 塞かませば ながるる水も のどにかあらまし」(明日香川にしがらみを作って堰き止めたら、水の流れも緩やかになるだろうに) 亡くなった明日香皇女の魂が遠ざかって行く思いを惜しみ、柿本人麿が詠んだ挽歌だ(万葉集)。

「しがらみ」は漢字で「柵」。伊勢神宮へ参る時、五十鈴川を渡る宇治橋の5~6m上流に1列に並んで打ち込まれている8本の杭もその実物だ。上流から流れてきた倒木などが橋脚に衝突して橋を壊すのを防ぐために設けられている。

本来は、大切な何かを守る役割の「しがらみ」が、いつの間にか、纏わりついて束縛する厄介な代物、という意味に変質してしまった理由は定かではない。

いずれにせよ私たちは、社会生活を送る以上、各々が身を置くグループ ―― 家庭や会社、地域、あるいは趣味の集まりにおいてさえ、他のメンバーとの感情や思惑の違い、利害等に配慮し、発言・行動を抑える不自由さを受け入れざるを得ない。

「世の中は、相手を動かす“つながり”と、相手に動かされる“しがらみ”の両方によって成り立っている。その中で“しがらみ”を拒否し“つながり”だけを求める身勝手さは許されない」とコンサルタント会社「フライシュマン・ヒラード・ジャパン」代表・田中愼一氏。「せめて、“しがらみ”をどう最小化し、“つながり”をいかに最大化するかを考えるべきだ」と同社HPのコラムに綴る(要約)

問題は、しがらみをいかに最小化するか、しがらみがもたらす問題点にいかに早く気づくかだ。「しがらみは生活習慣病に似ている」と指摘するのは投資顧問会社「ポラリス・キャピタル・グループ」代表の木村雄治氏だ。「初期段階での小さな弊害を許容していると、徐々に体を蝕み、やがて取り返しのつかない事態を招きかねない」

だから木村氏はまた「しがらみ」の怖さを「象のひも」に喩える。「足にひもを巻かれ、逃げないよう育てられた象は、自分でひもを千切れるほど成長した後も、おとなしく繋がれたままでいる。組織内のしがらみとは、この象を繋いでいるひもではないか」

神戸製鋼の品質検査データ改ざんは、なんと40年以上前から続いていたそうだ。また日産自動車は、新車の無資格検査問題が表面化した後もなお無資格検査を続けていた工場があったことが分かり、全車両の出荷を停止する事態に陥った。それぞれ、組織に蔓延るしがらみを、長年見て見ぬふりしてきた結果だろう。「他山の石」である。