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億劫 No.884

京都・左京区「哲学の道」近くの金戒光明寺にある阿弥陀さまは、かなり個性的な姿で知られている。螺髪と呼ばれる髪型が、まるでパンチパーマのアフロヘアのようにファンキーで、一般の阿弥陀仏に比べるとずいぶん頭デッカチだからだ。

理由は「五劫思惟(ごこうしゆい)阿弥陀仏」と称されるその名前の「五劫」部分にある。 「劫」とは仏教における時間の単位で、この仏さまは「一劫」の5倍という長い期間、修行を続けられたため、髪の毛がここまで伸びてしまったというのだ。

問題はその「一劫」の長さである。二説あり、一説は、一辺が6㎞の巨大な石を、天女の軟らかい衣で100年に一度のペースでサラッと撫で、その石が擦り減ってもまだ一劫が終わらないほどの時間。他説では、四十里四方の城に小さな芥子粒を満たし、100年に1度1粒ずつ取り出し、全部取り出し終わってもまだ終わらないほどの時間。これを人間社会の時間軸で換算すると、「一劫」は約43億年に当たるとする説もある。

生まれてきた子供の長命を願い、博学の和尚から教わった縁起の良い言葉を全部つなげて名付けてしまった落語「寿限無」は有名だが、「寿限無寿限無 五劫の擦り切れ…」で始まる「劫」もそれだ。ただし「五劫」 = 「一劫×5」だから、「寿限無…」は43億年×5=215億年という、流行り言葉で言えば「半端なく長寿」の名前と言える。

しかし、その程度で驚くのは早い。なぜなら私たちは日頃、もっとスケールのデカい、大げさな言葉を口にしているからだ。だって、こういう言い方、しません? 「この暑い中を外出するのは億劫だ」などと。「一劫=43億年」なら「1億劫=43京年」。気が遠くなるほど時間がかかることをするのは気乗りしないし、面倒だ、というのが現代語における「億劫」の語源になった。「未来永劫」は、さらに果てしない比喩表現になる。

しかし、釈迦は入滅(死去)する前、悲しむ十大弟子の一人・阿難にこう言い残したと伝わる。「億劫相別れて、しかも須臾(=一瞬)も離れず」(私の肉体は滅んでも、教えは汝の心に一瞬も離れず生き続けるのだから、決して寂しがるではない)と。

現代医学によると、認知症の発生リスクは、1日1回外出する人を基準にした場合、億劫がって2~3日に1回しか外出しない人は1.58倍に、1週間に1回1回しか外出しない人は3倍に高まるそうだ(東京都健康長寿医療センター調べ)。

9月入り。なのに酷暑はまだ続くそうだ。準備を整えたうえ、億劫がらず行動しよう。

「型」 No.885

本格的な神社仏閣の建造を請け負う宮大工は、建築に取り掛かる前にまず、あの独得な曲線で反り返った屋根が山型に合わさる「破風(はふ)」部分の「型」(原寸大模型)を作るそうだ。釘や耐震金具を使わない寺社建築では、破風部分の最初の組み方にほんの少しでも狂いがあると、屋根部分のみならず完成後の対もの全体が微妙に歪んだり、また材木の経年変化や風雨・地震に伴う外的圧力によってガタが生じる原因になりかねないからだ。それを事前検証する意味で、宮大工は破風の型作りに手を抜かず、1カ月以上を費やす場合もあるという。

「型」の重要さは、あらゆる分野・事柄に通じる。鉄製品や部品を作る時の「金型」、鋳物製品を作る時の「鋳型」、さらに「木型」や「紙型」など、物を作る際の原型は何より大事だ。多くの工業製品分野で、日本の技術力を支える財産でもあった「金型」が、工場の海外移転とともに流出し、その後の日本の中小企業を一層弱体化させる原因になったことは周知の通りだ。また物づくりの世界だけでなく、相撲などの武道、野球やゴルフなどのスポーツ、将棋や囲碁も、基本となる「型」が重んじられる。

その点、ITシステムの導入などでは「『型にはまる』のか『型にはめる』のかを見極めることが重要だ」とシステムコンサルタント・長谷川渉氏は言う。現在業務の流れをあまり変えないまま、効率化を目指すのが「型にはまる」方法であり、他方、新たなITシステムを導入し、それに合わせて業務を見直してゆくのが「型にはめる」方法。ただ、導入企業の業種・業態、軌道に乗せるまでに要する時間、あるいは社員の意識改革レベルなどによって、それぞれメリット・デメリットがあるため、「型にはまる」のか「型にはめる」のかを「充分見極めることが重要」と長谷川氏。

これに対して販促コンサルタントの渋谷雄大氏は「成功事例には、外してはならない『型』が必ずある」として、こう指摘する。「まずは成功者の成功パターンを徹底的に真似してみることだ。つまり『型』を守り、その中から成功の本質を学び取る姿勢が大事。そうやって体験を重ねたうえで、次のステップとして自分なりの『型』を見出してゆく――つまり型『守破離(しゅはり)』が、結局は一番の近道になる」

閉塞感が漂う日本の社会。だからついつい「型破り」を求めたくなるけれど、「まずは基本の型を全うしてから」と主張する渋谷氏の 型「守破離」に同意する。

座りすぎ No.886

半年ほど前からスマートウォッチを使用し始めた。店頭に陳列されている商品はデザインや機能が実に多彩で、購入する際はずいぶん頭を悩まされた。腕に付けておくだけで脈拍や睡眠時間、運動量など、計測した情報をスマートフォンのアプリを通して数値やグラフでデータ化されるため、手軽に健康管理ができる。外観は腕時計そのものだから、時計プラスアルファ程度だろうと過度の期待はしていなかったが、「二度寝」さえも把握されていて、なかなか面白い。

日頃から、睡眠時間が短いことを自覚してはいたが、計測されたデータをみて、その短さに改めて気付かされた。せめて週末はしっかり睡眠をとらなければと反省したが、計測データから別の課題が見つかった。それは「座りすぎ」である。30分毎の歩数がグラフで表示されるのだが、1歩も歩いていない時間が毎日1~2時間もあったのだ。デスクワークとはいえ、何か対策を考えなければならない。

座りすぎについて、欧米では2000年頃から問題視されはじめ、オーストラリアでは官民一体で座りすぎ防止のキャンペーンを実施している。 長く座ったままでいると、脚の筋肉をほとんど動かさないため血流が悪くなり、代謝機能も落ちる。これが肥満や糖尿病だけでなく、がんなどを誘発し、死亡リスクが上がるという調査結果が出ている。

早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授は、「がんの場合、座っている時間が長いほど罹患リスクが高くなる。顕著なのは大腸がんと乳がんで、座りすぎにより大腸がんは30%、乳がんは17%罹患リスクが上がる」と警鐘を鳴らす。

また「働きすぎ」といわれる日本人が、仕事などで平日に座っている時間は1日7時間と世界一長い。立っても座っても作業ができる一台で数万円する昇降デスクもあるが、導入している企業は日本では、ごく一部にとどまる。ならば、立って会議をする、トイレに行く、お茶をいれる、書類をシュレッダーにかけに行くなど、些細なことでも意識して動くことを心がけたい。座ったままでも、踵を上げ下げしたり、脚を浮かせた状態でつま先をまっすぐ伸ばしたり直角に立てたりするだけでも改善されるそうだ。

日頃、漠然と捉えていたこともデータとして可視化されると新しい発見がある。通勤電車で、ついつい空いた座席を探している行いを、変えていかねばと思う。

社名変更 No.887

社名変更がいま流行っている。日本経済新聞の調べによると、2017年度は国内主力企業で237社が変更、2018年度も高水準が続いているという。

今年に入って変更した企業には旅行代理店のジェイティービーが「JTB」に、不動産仲介のアパマンショップホールディングスが「APAMAN」にそれぞれ変更、また10月には通販のスタートトゥデイが「ZOZO」、2019年1月1日には自動車部品メーカーの東洋ゴム工業が「TOYO TIRE」に変更を予定している。

現在、広く浸透している大手企業の社名も、創業当初から一貫して使っているケースは案外少ない。菓子メーカーの松尾糧食工業は、1955年(昭和30年)にカルビー製菓に変更、1973年(昭和48年)にいまの「カルビー」に変更したが、その理由(わけ)は「カル」がカルシウム、「ビー」がビタミンB1を組み合わせたもので、消費者の健康に役立つ商品づくりを目指したから。

また「ソニー」は1958年(昭和33年)、東京通信工業から、ラテン語で「音」を意味する「SONUS(ソヌス)」と「小さい」「坊や」という意味の「SONNY(ソニー)」を組み合わせた現社名に変更した。当時社内では「何の会社かわからない」「せめてソニー通信工業ではどうか」などの反対意見が出たものの、創業者である井深大氏と盛田昭夫氏はそれを押し切った。両氏は将来のグローバル展開を目指して、世界中どこでも同じ発音で言い表せる「ソニー」はその理念を体現したものだった。

「パナソニック」は2008年(平成20年)に松下電器産業から変更した。承知の通り、それまで、白物家電には「ナショナル」、パソコンやデジカメなどには「パナソニック」のブランド名を使用していたが、世界的優良企業を目指すため、創業以来90年間使用していた一族「松下」の名をやめてまでも、海外で浸透していた「パナソニック」を社名にすることを決めたのだ。

社名を変えることは勇気がいる。そして看板の付け替え、システムの変更、パンフレットや書類の印刷に大きなコストが掛かり、それにもまして、逆にイメージダウンにならないだろうかという懸念も出てくるかも知れない。それらの労力を考えると簡単には「変更」とはならないかもしれないが、それを差し引いても、もっと広めたい、もっと認めてもらいたいと思うのならば一考に値するだろう。