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無人コンビニ No.896

本部のサポートがしっかりしているコンビニエンスストアのオーナーにとって、最も重要で、かつ難しいのが従業員の管理ではないだろうか。

オーナー以外は直営でもFCでもその大半がパートかアルバイトだろうが、昨今の求人難の時代においては、広告を出してもなかなか人が集まらず、特に24時間営業の場合などは深夜の時間帯で顕著である。何とか頭数を確保して勤務シフトを作ってみても、予定通りに事が運ぶことはまずない。パート・アルバイトの突然の「休み」も受け入れなければならないし、当然欠員予備人員などはいないから、やむなくオーナーが入ることになる。睡眠は数時間といった極めて不規則な生活パターンになり、ほとんど休みを取らずシフトに入ることで何とか運営を維持している店舗も少なくないだろう。

こうした中で、期待されているのがコンビニの無人化だ。なかなかイメージがしづらいが、実際、接客対応する従業員がいない現場は、アマゾン・ドット・コムのアメリカや中国で急速に広がっている。利用については、あらかじめスマホにアプリをダウンロードしておく必要がある。そして、入店時に自動改札機のようなものにそれをかざし、買い物も商品のバーコードをアプリでスキャンするとモバイル決済されるという仕組み。つまりすべての作業がスマホを通して行われるのだ。さらに進歩している無人コンビニでは、バーコードをスキャンする作業も省略されていて、店内に設置されているセンサーが、お客がどの商品を手に取ったかを検知し、スマホに登録したクレジットカードで自動的に支払いがなされるといった具合。

セブン-イレブン・ジャパンでもカメラによる顔認証を使う実験店を東京で開設し、近い将来本格化させたい意向だ。レジ業務が不要になり、運営に要する人員は、清掃や商品補充が出来ればよく、常駐の必要性はないから1人で数店舗を管理することも可能。さらに、頭の痛い問題である万引きなどの犯罪も起こりにくくなるので、収益率も上がるという利点がある。

日本では試行錯誤している段階だが、これが急速に拡大するにはキャッシュレス化の遅れもあってまだ時間がかかるかもしれない。「現金の文化」をなくしていくのは年配の方を中心に抵抗もあるだろうが、東京オリンピックや先日決定した大阪万博などの国際行事に向けて、しっかりとしたサービス基盤の整備は必要になるだろう。

『ボヘミアン・ラプソディ』 No.897

『ボヘミアン・ラプソディ』は、イギリスのロックバンド、クィーンのボーカル、フレディ・マーキュリーの半生を軸にクィーンの誕生から世界的なバンドになるまでを描いた伝記映画だ。クィーンを知らない人でも、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」、「伝説のチャンピオン」はサッカーやプロレスなどスポーツ番組やCMなどで頻繁に流れているので、誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。

実はこの作品、試写会での批評家たちの評価はあまり芳しくなかったそうだ。しかし、公開されると観客からは大きな支持を得て、日本では封切から3週目を迎えた11月25日までの累計動員は約166万人、累計興行収入23億3,610万円を達成、全世界累計興行収入は4億7,217万ドル(約533億円)に達し、音楽映画としては異例の大ヒットとなっている。

ロックにオペラを取り入れるなど、それまでのロックの概念を打ち破る数々の試みをしてきたクィーンの姿は、1970年代、’80年代に青春時代を過ごした人たちのみならず、若い世代の人たちにも共感を呼び、映画だけでなく、サントラをはじめ他のクィーンのCD、配信がチャートインするなど音楽アルバムの売れ行きも好調だという。

「史実と違う」「時系列が違う」という批判もあるようだが、クィーンのギタリスト、ブライアン・メイの「これは伝記映画ではなく、硬い岩から掘り出されたような、純粋なアートだ。家族や人間関係、希望に夢、悲嘆や失望、そして最後には勝利と達成感が、誰にとっても共感できるような物語として描かれている」(抜粋)というコメントで、すべて説明されている気がする。むしろ、ピークを「ライブエイド」のライブシーンに持っていった脚色と演出はすばらしく、観ている者の胸を熱くする。伝記というより、クィーンの伝説を描いた映画として観客は楽しんだに違いない。

フレディ・マーキュリーはタンザニアのザンジバル出身のペルシャ系インド人で、17歳の時ザンジバルの革命による混乱から逃れイギリスにやって来た。移民として差別を受け、特徴ある容姿でコンプレックスを持ち、LGBTだったフレディは才能を開花させることができたが、その裏では、どれほどの重圧があっただろうか。

HIVによる合併症で45歳の若さで亡くなってから30年近くたった今、天国のフレディに「差別の無い世の中になったよ」と、自信を持って言えない現状が悲しい。

世相を反映する歌舞伎 No.898

宮崎駿の名前を世にしらしめたといえる『風の谷のナウシカ』が、来年12月東京の新橋演舞場で新作歌舞伎として上演されることが、先日発表された。

『風の谷のナウシカ』は1984年に制作された宮崎駿監督の長編アニメーション映画で、1984年度のアニメグランプリ、日本アニメ大賞の作品部門をダブル受賞するなど、国内外でアニメの枠を越える評価を得た作品。原作は宮崎駿の全7巻からなる同名の漫画で、海外でも8か国語で翻訳、出版された。今回、歌舞伎として上演するのは、連載の途中でアニメ化された映画バージョンではなく、2年に渡って連載された原作の方だ。SFファンタジーともいえる壮大な世界を描いた漫画をどう舞台化してくれるのか、期待に胸が膨らむ。

近年、漫画のドラマ化、映画化は当たり前のように行われているが、歌舞伎も負けてはいない。2015年には、尾田栄一郎作の漫画『ONE PIECE』を四代目市川猿之助が主演、演出した『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』を上演。幕が開くと同時に評判を呼び、大阪、福岡と各地で公演を続け、2017年には第2作目が上演されるなど大人気となった。また、今年8月には、岸本斉史の漫画『NARUTO-ナルト-』も歌舞伎化され話題となったのも記憶に新しい。

実は、世の中で流行っているものを取り上げるのは、歌舞伎の得意技なのだ。江戸時代から人形浄瑠璃(文楽)で人気の作品を歌舞伎化、繰り返し上演して義太夫物として一つのジャンルを形成した。代表作には「菅原伝授手習鑑」「義経千本桜」「仮名手本忠臣蔵」などがあり、現在も名作として頻繁に上演され続けている。いまでこそ歌舞伎は日本の伝統芸能として、ちょっと敷居の高いもののように思われているが、江戸時代、歌舞伎見物は庶民の娯楽で、ワイドショーネタのような世間で話題になった事件を芝居の題材にするなど、世相を反映したお芝居を次々と作り人気を博してきた。いまもその流れが続いているといえよう。

『風の谷のナウシカ』の舞台は、自然が破壊され、強国からの侵略にさらされている「風の谷」だ。「環境問題」「終わらない戦争」を問いかけるこの作品が、公開されて30年以上たったいま、歌舞伎化されることを思うと、考えさせられる。

どんな作品を見せてくれるか、来年の12月を楽しみに待ちたい。