2018年10月のレーダー今週のレーダーへ

道筋をつくる No.888

先日、アウトドア用品を扱う企業の展示会を訪れた。会場にはヘルメット、カラビナ、クライミングシューズ、ピッケル、チョークバックといった、今流行のロッククライミング用品が展示されており、ロッククライミングが趣味だという担当者からいろいろと教えてもらった。

クライミングをする前には“トポ”(トポグラフィーの略称)を読むことが基本であり、また重要なのだという。“トポ”とは岩壁上さまざまなルート図が掲載されたガイドブックのことで、各ルートの難易度、注意点などが書かれている。そもそも、“トポグラフィー”とは地形や地製図、地形学などの意味を指すのだそうだ。

高度のある岩壁だと、ロープを引っ掛けるボルトがルート上に設置してある場合がある。最初にそのルートを選択した人が設置したもので、ルート名も最初に登った人が好きにつけていいことになっている。それにしても、岩壁に複数のルート(道筋)があることは初めて知った。

前を歩く者が道筋をつくり、または既に存在する道筋を指し示す。後からその道を通る者はその道筋が正しいかを判断、選択する。そして、さらに後に通る者に道筋というバトンを渡していくのだが、その繰り返しにより、さまざまなルートが確立されていく。この原理は生きるもの全ての行動に共通するとともに、企業経営にも当てはまる。

今年も多くの会社で社長が交代した。生活家電や日用品雑貨などの製造を手掛けるアイリスオーヤマは、7月、53年にわたり社長を務めた創業家の大山健太郎氏が会長に退き、長男の大山晃弘氏が社長に就任した。当初の予定より2、3年早い交代となったのは、国内での製造・販売体制が確立、海外への投資も積極的に実施しており、さらなる成長に向けた道筋が整ったためだ。

航空大手の日本航空も4月、植木義晴氏から赤坂祐二氏に社長交代した。前任の植木氏は、経営破たん後の2012年(平成24年)に社長に就任したが、「5年連続営業利益率10%以上」を目標に掲げた中期経営計画を完遂させ、再成長の道筋が見えてきたタイミングだった。両社はしっかりとした“トポ”ができたのだろう。

自らが先頭に立って新たな道を切り拓き、次世代に託していくことはトップの責務だ。常に新しいルートを模索する前向きな気持ちは忘れてはならない。

シェア No.889

いま「シェア」が流行している。シェアハウス、ライドシェア、ワークシェア…。今年7月には孫正義ソフトバンクグループ会長の東京都内の講演会でのライドシェア規制に対する怒りの発言が話題になった。

思えば我が国は、高度経済成長期には絶えず消費喚起を行ってきた。メーカーにおいても消費が飽和状態になれば細分化し、それを打破してきた。例えば、歯ブラシは、各家庭に行き渡った後、そんなに頻繁に買い替えるものではないため消費は落ちる。そこでどうしたか――。大人用、子供用に細分化し、効果的なPRとともに消費をフルに喚起して、生産、流通、消費、廃棄のサイクルを絶えず拡大してきた。人口が右肩上がりに増加していたからこそ可能な手法だったのだろう。

しかし、今や「失われた30年」に突入している。少子高齢化による人口減少社会に入り、生産年齢人口が減少している中で、所得格差も拡がり、若年層の消費意欲の減退も顕著になっている。過去のような経済成長は望むべくもなく、今までの成長を前提とした消費を喚起し続けるモデルが成り立たなくなってきており、こうした背景から「分担する」「共有する」いわゆるシェアのニーズが高まってきている。

例えば、シェアハウス。生活の一部を他人と共有化してもコストに優位性があって、かつある程度快適な生活が送れるならば、それで良いという発想である。持つ消費から持たない消費への転換、生活の全てをプライベート化するスタイルから生活の一部を他人と共有化するスタイルへの転換でもある。高度経済成長期以降、家を所有することが一つのステータス(絶対的価値観)になった。しかし、人口が減少しているにもかかわらず、消費を喚起し続けたツケが「空き家問題」として露呈している。地方だけの話ではないのか?と思うなかれ、この問題は東京、大阪、神奈川、愛知などの各県に顕著で、対策が急がれるのはむしろ都市圏なのだ。

空き家をシェアハウスに有効利用すれば、正に一石二鳥である、とはまだ結論付けられないだろう。この試みが広がりを見せる中で、騒音、冷蔵庫の管理、掃除、そして人間関係など様々なトラブルも報告されているからだ。

しかし持たない消費モデルの「シェア」を切り口としてビジネスや経済を見ていくことで何らかの活路が見出せるのではないだろうか。

ワイプ No.890

ここ数年、地上波のテレビをほとんど見なくなった。BS、CSといった衛星放送の充実や、インターネット動画の普及が大きな理由だが、これでもかと映し出される「ワイプ」や「テロップ」にうんざりしたせいもある。

「ワイプ」とは、「wipe=(汚れなど)を拭き取る」が語源で、画面片隅の斜め上下左右から画面を丸形・三角形・ひし形など様々な形に拭き取るように切り替えて次画面を映す映像技術のこと。昨今では、画面の片隅に別の映像を表示する「コーナーワイプ」の事を指すことが多い。バラエティ番組などでVTR中にスタジオにいる人たちを映す、あの小窓のことだ。

ワイプの歴史は古く、1970年代から使われるようになったとされるが、現在のような形の基(もと)となったのは日本テレビの『世界まる見え!テレビ特捜部』(1990年7月~)が始まりといわれている。同番組は世界各国の話題の番組や映像を紹介するバラエティだが、あるドキュメンタリーを取り上げた回でどうしても時間が足りなくなり、苦肉の策として画面に小窓を作り、出演者の表情やコメントを差し込んだ。これが思いのほか好評だったことで、その後、数多くの番組で使われるようになった。

当初は邪魔にならないところに入れていたようだが、最近の番組を見ると、あらゆるシーンでワイプが現われ、出演者も「ワイプ芸」と呼ばれる、わざとらしい過剰なリアクションをするようになっている。まるで視聴者に笑う場面、泣く場面を指示するかのようだ。いつの間にか、ワイプの目的が番組の意図に沿って視聴者の感情を誘導する役割に替わってしまった。

テロップにも同様のことがいえる。字幕放送でもないのに出演者の発言をいちいち画面に表示する。中には、演出として巧みなものもあるが、ほとんどは必要ないものばかりで、酷かったのは、映画の中でこの先のストーリーを暗示するテロップが流れたこと。これには怒りを通り越してもはや呆れるほかなかった。

過剰なワイプ、テロップは想像する楽しみをも奪ってしまう。あらゆる事に対して丁寧すぎるほど説明がされている現代日本。感性や生活スタイルまでもが、知らないうちに受動的になっているのかもしれない。

自ら「感じる」「想像する」「考える」という人間の本能を忘れないでいたいものだ。

楽しんだ大谷翔平 No.891

中日ドラゴンズが大阪桐蔭高校の根尾昴内野手の交渉権を獲得するなどドラフト会議の興奮が冷めやらないまま、プロ野球日本シリーズが27日から始まる。一方で、現役引退、戦力外となって球界を去る選手が少なからずいる。チーム内のポジション争い、大小にかかわらずケガは付いて回るし、かつては輝かしい成績を残した選手であっても体の衰えは必ずやってくる。すべてが順風満帆な選手生活を送った選手など皆無であろう。

そんな中で、MLBロサンゼルス・エンゼルスに入り、二刀流として奮闘した大谷翔平選手はこの1年を振り返り「本当に楽しかったです。毎日、球場に来るのが楽しみでした」とインタビューに答えていた。慣れない環境に初めて身を投じ、活躍はしたものの、肘を痛めシーズン終了後に手術を余儀なくされたにもかかわらず、楽しかったと言い切るのには驚かされる。

思わず記者が「野球が仕事という感じがないですね」と質問すると、大谷選手は笑いながら「失礼ですね」と言った後、「そんな感じですね。ちっちゃい頃から野球を始めて、そのまま来たという感じです」と返答。野球が好きで、投手としても打者としてもトップクラスの働きが出来る才能があればこそ、厳しい勝負の世界であっても楽しいと言えるのかも知れないが、まさに「規格外」の選手である。

楽しく仕事をして充実した日々を送りたいと思っている人は多いが、実際には夢に描いていた職に就ける人は少なく、就けたとしても理想と現実のギャップに悩み、楽しい気持ちよりつらい気持ちが勝っていることの方が多いのではないか。さらに仕事には常に責任が付きまとい、そんなに楽しんでいられないというのが現実ではないだろうか。

では、どうすれば仕事が楽しいと思える心境に近づけるのか。ある経営コンサルタントは「まず完璧主義を廃すこと。すべてを完璧にこなそうとすると、どこかで無理が生じ、自分の納得がいかないと一気に仕事が楽しくなくなる。次に仕事に追われないこと。目の前の仕事にだけ追われると余裕がなくなる」と指摘していた。

大谷選手は「楽しく野球が出来たのは監督でありチームメートのお陰です」と常々謙虚に話している。楽しく仕事をするには本人の心のあり様と同時に、経営者や上司、同僚の精神的な支えが必要なのだ。