2016年9月のレーダー今週のレーダーへ

プライムフライデー構想 No.784

リオ五輪の日本選手の活躍に拍手を送っていた夏休みの最中の8月13日、産経新聞が「個人消費喚起のため政府・経済界が『プライムフライデー』構想」と報じた。

政府は平成32年度をめどにGDP(国内総生産)を600兆円に拡大する目標を立てている。そのためには、現在300兆円に止まっている個人消費を360兆円に引き上げる必要があるというのが経団連の試算。そこで、毎月末の金曜日は終業時刻を午後3時に切り上げ、夕方に買い物や食事をしたり、これまでは土曜日の朝から出掛けていた旅行の出発を前日からに早めることなどで、個人消費を喚起しようというのが狙いだ。

「なるほど名案!」という反応はしかし、関係者の期待に反して薄い。ネットアンケートの意見では「効果がある」の28%に対し「効果なし」が64%と倍以上。「月次の締め作業が近い月末金曜日の3時終業は無理。可能なのは公務員ぐらいだ」「仕事量が変わらなければ、処理し切れなかった仕事は別の日に回され、結局サービス残業が増えるだけだ」「勤労者の3割を占めるバイトやパートは大半が時給。3時上がりは減収になり、個人消費はむしろ減少する」など冷ややかな反応が数多く載る。

旅行会社エクスペディア・ジャパンの調査によると、日本では正社員の場合、年20日の有給休暇を付与されているのに対し、その取得は平均12日。つまり平均60%という日本の有休消化率は、世界26カ国中、韓国(40%)に次いで低い。

にもかかわらず「休みをもっとほしい」と答える日本人は39%止まりで、意外に少ない。なぜか。日本は週休2日の定着や祝祭日、年末年始、夏季休暇など年次休暇が比較的充実しているため、経済開発協力機構(OECD)調査によると年間労働時間は平均1746時間(2012年)と、世界平均の1765時間をわずかにせよ下回っている。つまり日本人は、自身が思っているほど「働き詰め」の状況にないからではあるまいか。

8月15日発表された本年4―6月期のGDP速報で、個人消費は前期比0.2%増にとどまった。消費が伸び悩んでいる理由は明確だ。非正規社員の増加、賃金の伸び悩み、若者や子育て世代が抱く将来への不安等々、それらの何一つとして改善・是正の兆しがみられないのに、気持ちが消費に動くはずがない。

「自由な時間を増やせば消費が増えるだろう」とは、古き良き昭和の時代の発想ではないのか。 「思いつきで消費が上向くなら苦労はしない」と断じていた某ネットジャーナリズムの指摘に、いたく同感である。

がんばるローカル鉄道 No.785

千葉県の銚子 ― 外川駅間の6.4㎞を走るローカル鉄道・銚子電鉄。その代表取締役社長である竹本勝紀さんが先ごろ、電車の運転免許を取得したそうだ。

同社には3人の運転士がいるが、「イベント列車の増便もあり、慢性的に運転士不足。だから自分も」というのが自ら運転免許を取ることにした動機。「それに、運転士として乗ることでお客様と接し、経営改善のヒントを何か得られたらありがたい」とも。

ただし銚子電鉄は、厳密には「鉄道事業」者ではなく「食品製造販売業」者である。なぜなら、地域の過疎化=利用客の減少=赤字拡大を補うため、1995(平成7)年から副業で始めた「ぬれ煎餅」の製造販売が、いまや売上高の7割強を占めるからだ。

「鉄道マニアの税理士」だった竹本さんが同社の社長に就いたのは2012(同24)年。ぬれ煎餅の新工場・店舗を建設して収入基盤の安定化を図る一方、「お化け屋敷電車」や、各駅を占拠する妖怪たちを捕まえる「妖怪スタンプラリー」企画など、柔軟な発想で本業?の鉄道部門の活性化にも力を注いでいる。 千葉県にはもう一つ、1988(昭和63)年に第3セクター方式で再出発した、いすみ市・大原 ― 夷隅郡大喜多町・上総中野駅間26.8㎞を結ぶいすみ鉄道がある。

再出発後も赤字が続いたため、2008(平成20)年に社長の一般公募に踏み切った。初代の公募社長が1年で退社したため、翌年行われた再公募に名乗りを上げ、選ばれたのが、元外国航空会社の部長で、やはり大の鉄道ファン・鳥塚亮さんだった。 鳥塚さんもまた、アイデアマンである。子供にも大人にも人気の「ムーミン列車」や、鉄道マニアにはたまらない旧国鉄タイプの「キハ型」電車の運行、訓練費を自己負担して電車の運転免許を取る「運転士採用プラン」等々。まだ道半ばだが、経営建て直しの諸策を打ち出し、徐々に成果を上げつつあると評価は高い。

鳥塚社長が目指すのは「ブランド化」だ。「ブランド化とは、商品の良さを理解していただいた少数のお客様に、ファンになっていただくこと。だから、乗らなくていい、写真を撮りに来るだけでもいい。沿線に来てお土産品を買っていただいたり、地域にお金を落としていただければいい。それが、いすみ鉄道のブランド化です。不要不急品、つまり『要らないもの』ほどブランド化しやすいのです」(著書「ローカル線で地域を元気にする方法」、要約)

鳥塚氏の考え方は、他業種にも通じるヒントに富む。

カープ優勝おめでとう No.786

球団の担当者が、優勝決定後のビール掛けの準備を始めるため、他球団に問い合わせたらしい。「ビールはどのぐらい用意するものなんですか?」 某球団「1000本くらいでいいんじゃないですか?」 カープ「ええっ、そんな大量のビールを冷やす冷蔵庫、ウチにはないんですが…」 某球団「いやいや、ビール掛け用のビールは冷やさなくて大丈夫ですから」―― ネットから拾った話なので、真偽は保証しないけれど。

広島カープの選手、ファン、球団関係者のみなさん、リーグ優勝おめでとう!

よかったのは、12球団で最も長い25年間も優勝から遠ざかってきた球団の、念願がやっと叶ったからだけでない。カープは今季、主戦・前田健太投手が大リーグへ渡って戦力低下を否めない条件下、前々季に黒田博樹投手が、提示された巨額を蹴ってまでも大リーグから、また新井貴浩内野手も自由契約になった阪神から拾われる形で戻ってきた中で、優勝を成し遂げられたからだ。優勝を決めた10日巨人戦の先発を見ても、カープは黒田、新井両選手を含む全員が、元々カープがドラフトで獲得し育ててきた選手。有力選手を高額年俸で集めてくる他球団とは、いわば“純度”が違う。

“純度”という点では、親会社を持っていないというカープ球団の成り立ちが、そもそもそうだ。原爆被災、敗戦という二重苦の中から、再起の象徴としての期待を背負ってカープ球団は1950(昭和25)年に生まれた。運営が資金難に陥った際は、ファンが酒樽に寄付金を集めて危機を凌いだ。カープが「市民球団」と言われる所以だ。

しかし、貧乏だからこそ球団はその後も、他球団に先んじたグッズ販売や、流行語になった「カープ女子」の誕生の後押しなど、斬新な営業戦略を進めて来た。その地道な努力が着実に実を結んでいることを、今回、各地で繰り広げられた、優勝に喚起するカープファンの想像以上に多い姿を全国ニュースで見て、知ったのではなかろうか。

スポーツライター・小林信也氏は言う。「プロ野球で優勝する最大の要素を『戦力の充実』とし、開幕前の分析が行われるが、評論家たちの予想はたいてい外れる。なぜか? それは、戦力は優勝を手繰り寄せる最大のポイントではないからだ。

高校野球の優勝条件のように思われがちな『チームの気持ちが一つになる』という要素は、実はプロ野球でこそ重要だ」(オピニオンサイト「iRONNA」から抜粋・要約)。目下某球団とリーグ最下位を争っている中日ファンとしては、小林氏のご高説に異議を唱えまい。

「耐雪梅花麗」 No.787

「先週書いたばかりではないか」とのお叱りを甘受してでも書きたいと思うのは、プロ野球セ・リーグ優勝を決めた広島カープ・黒田博樹投手の話だ。あの日、ピッチャーズマウンドに集まり優勝を喜ぶカープ選手たちの渦の中、新井貴浩内野手と抱き合って男泣きする黒田投手の姿には、ファンならずとも貰い泣きした方も多かろう。

黒田選手といえば、「耐雪梅花麗」の言葉が浮かぶ。西郷隆盛が、亡くなる5年前に、渡米する甥に送った詩の一節にある。「一貫唯唯諾(引き受けたことはやり通す) 従来鉄石肝(鉄石のように守ってきた胆力を変えず) 貧居生傑士(豪傑は貧しい生活を通して生まれる) 勲業顕多難(業績は多難の末に成され) 耐雪梅花麗(雪の冷たさに耐えてこそ梅花は麗しく) 経霜紅葉丹(霜を経てこそ葉は紅くなる) 如能識天意(如し天命を能く識るなら) 豈敢自謀安(安楽を謀るような生活をしてはならない)」

高校の習字の授業で知って以来これを座右の銘にしている黒田投手は、渡米した初年、米ヤンキースのキャンプミーティングで、各選手が好きな言葉を披露せよと求められた際にも、この言葉と意味を話した。感銘したジョー・ジラルディー監督は後日、梅の花の写真をネットで探し、自分のパソコンのデスクトップ画面にしたそうだ。

カープに戻り、今年7月、日米通算200勝を達成した黒田投手。試合後のセレモニーで、球団が黒田投手に内緒で作り、選手やスタッフ、首脳人ら全員が着て偉業を祝った真っ赤なTシャツにも、胸に「耐雪梅花麗」とあった。ただし、である。その背中には「あの黒田さんが、まさか…。1イニング10失点@由宇」と書かれていた。黒田投手が入団後初めて、由宇球場で行われた2軍の練習試合に中継ぎで登板した際、1イニングで10失点した“黒歴史”が、ジョークで書かれていたのだ。

その3カ月前。新井選手が2000本安打まであと数本で足踏みしていた時、選手会がやはりTシャツを作った。胸には「1歩ずつ大台への階段をのぼっています(休憩をはさみながら)」、しかし背中には「まさかあのアライさんが…」。昔、ホームベースに2バウンドで届くような悪球に手を出していた新井選手が、努力の末、名球会入り選手になったことを、どうやら黒田投手の発案で、からかったことへの仕返しらしい。

共通の目的に向け各々懸命に努力しながら、互いの活躍を応援し合う ―― チーム環境の良さが25年ぶりのリーグ優勝につながった。

野球に限らぬ理想の組織の姿だ。

小池都政、スタート No.788

9月28日の東京都議会定例会・本会議。「豊洲市場の移転に関する一連の流れにおいては、都政は都民の信頼を失ったと言わざるを得ません。『聞いていなかった』『知らなかった』と歴代の当事者たちがテレビカメラに答える姿に、多くの都民は嘆息をもらしたことでありましょう」―― 就任の挨拶を最初の数秒で済ませ、いきなり本題に斬り込んだ小池百合子新都知事の所信表明は、約40分、1万2000余字に及んだ。

そして最後を「日本の未来を明るく照らす『新しい東京』を都民のみなさま、都議会のみなさまとともに作り上げていきたい。ご協力を」と結んだ時、遠回しながら宣戦布告を受けた格好の、自民・公明党議員で65%を占める議場内は、歴代新都知事の初めての所信表明時に比べると拍手がかなり少なかったそうだ。

他方、街頭やマスコミを含む議場外の評価は総じて悪くない。さすがこれまで国政の場で海千山千に揉まれながら生き抜いてきた強者・小池氏だけのことはあると、妙なところで感心する。

ただ…である。都民に広く理解を求めるべき所信表明に、難解な横文字を多用する意図を理解できない。▽ワイズ・スペンディング(賢い支出) ▽サスティナブル(持続可能な) ▽ダイバシティ(多様性) ▽ブランディング(ブランドとして価値を育てる) ▽ソーシャルファーム(障害のある人々が働く場)等々、そのたびにネット検索し意味を確かめた。新知事が信条に掲げ、議会にも共有することを求める「都民ファースト」だって、「都民第一」のほうが簡潔ではないか。単に「格好つけ」なら、政治には無用だ。

小池氏はまた所信表明の締め括りに、第7代東京市長で、その後の関東大震災で壊滅的打撃を受けた首都の復興に大きく貢献した後藤新平の言葉「自治三訣」を引用した。「人の世話にならぬよう。人のお世話をするよう。その報いを求めぬよう」と。その精神を、自身はもちろん都議会議員、都職員のすべてが心に刻むように求めた。後藤がロンドンでボーイスカウトの訓練を見て感銘し、帰国後日本にも「全国少年団」(後の日本ボーイスカウト連盟)を創設した際に掲げたモットーだった。

医者として出発したものの「国家の医者になりたい」と政治家に転じ、将来の日本を担う有能な人材の支援に私財まで投じた後藤新平はまた、こんな言葉も遺している。「財を遺すは下。事業を遺すのは中。人を遺すは上なり」

新都知事が、後世に事業そして人を遺すため、これから手腕をどう発揮していくか、外野席からだが、見ていきたい。