2016年1月のレーダー今週のレーダーへ

いまならまだ… No.752

「お孫さんからおじいちゃんへ」という“逆お年玉”話を、もうご存知だろうか。

東京・北区のN印刷所は、古い得意先からの仕事を家族労働でこなす町の小さな印刷屋さん。でも、72歳になる店主Nさんは、仕事への情熱を失わなかった。数年前、製本業を営んでいた元取引先Aさんが店を閉めたことを知ると、声を掛けてアルバイトに来てもらい、2人で、ノートの製作という新しい仕事の研究に取り組み始めた。

ノートと言ってもただのノートではなく、「水平開きの方眼ノート」。普通のノートは、開くと中央の綴じ部分が膨らむため、字を書きにくく、コピーも取りづらい。そこで、開いても左右のページが真っ平らになるよう工夫した「水平開き」の方眼ノートを、2年間の試行錯誤の末に完成させ、特許も取り、2014年10月から販売を始めた。

しかし、売れなかった。それどころか、大量注文の商談が頓挫し、数千冊の在庫。

溜め息をつくAさんは、専門学校に通う孫娘に「友達にあげてくれ」とノートをまとめて渡した。受け取った孫娘も「学校で方眼ノートを使う人いないし…」。そこで孫娘は、今年元日のツイッターで呟いた。「うちのおじいちゃんの水平開きノート、費用がないから宣伝できないみたい。欲しい方、言ってください」 すると――。

「使いやすそう!」「私が欲しかったのはこういうノート」「どこで買えるの?」などリツイートが、あっという間に3万を超えた。同時に、商品を扱っていた通販サイトに注文が殺到し、現在「在庫ゼロ」。N印刷所はいま生産に大わらわだそうだ。

さらに、「痒い所に手を届かせた、日本人らしい発想」「イノベーションはいつも小さな会社から起こる」「『下町ロケット』を地で行く話」「一過性のブームで終わるかリピーターが付くか、これからが正念場」等々、ネット上で多くの意見が沸騰している。

経営コンサルタント・高橋政史氏が2014年に書いたベストセラーの題名が「頭がいい人はなぜ、方眼ノートを使うのか?」。有能ビジネスマンや東大生の多くが「方眼ノート」を愛用していることに注目した高橋氏は、その理由をこう解いた。「頭がいい人は、頭の中がいつも整理されている。方眼ノートは、使っているだけで情報を整理する力が養われ、しだいに思考力が深まり、発想力まで鍛えられてくるからだ」

「水平開き方眼ノート」を手に入れて机上に開き、そのアイディアと情熱と根気と幸運からヒントを得ながら「本年の計」を考えても、いまならまだ遅すぎまい。

違い No.753

世の中に、「似て非なるもの」は数多ある。たとえば――。

▽「ベランダ」は2階以上にある“屋根つき”のスペースであるのに対し、「バルコニー」は下の階の屋根の上を床にして作られた“屋根なし”のスペースのこと。また「テラス」は1階の床と同じ高さで屋内から直接出入りできるよう庭に突き出して作られた屋外フロアで、さらに「ポーチ」は張り出し屋根のある玄関や車寄せのこと。

▽「ミステリー」は、犯人や真相が最後まで分からないまま謎解きを楽しむ物語で、「シャーロック・ホームズ」や「金田一耕助」シリーズがそう。これに対し「サスペンス」は犯人が誰か最初から分かっていても、事件が解決されるまでの緊張感を楽しむもので、「羊たちの沈黙」や「デスノート」「古畑任三郎」シリーズなど。

▽「裸足(はだし)」は靴下などを履かず、足が地面に直接触れているのに対し、「素足」は靴下などを履かずに靴や草履などを履いている状態。▽JIS規格によると、土を掘る際、足で踏むタイプが「シャベル」、足を掛ける部分がないのが「スコップ」。

▽ビー玉入りのラムネ瓶に入っているのが「ラムネ」、普通の瓶に入っているのが「サイダー」で、中身は同じ。▽「つみれ」は、練った材料をヘラやスプーンで「摘み入れる」から「つみれ」、材料を手で捏ね(=捏(つく)ね)、丸めて入れるから「つくね」。

▽人の手が加わっていないのが「森」、人工的に植林したり間伐したのが「林」。▽「関東地方」とは東京、神奈川、埼玉、千葉、栃木、茨城、群馬の一都六県で、これに山梨県が加わった一都七県が「首都圏」。▽「ブラスバンド」は金管楽器と打楽器で編成され、これに木管楽器が加わると「吹奏楽」。

▽酢飯に具材を混ぜ込んだのが「五目寿司」、酢飯の上に具材を散りばめたのが「ちらし寿司」。▽髪の毛の表面に被膜を作って保護するのが「リンス」、毛の内部にまで浸透し傷みを予防する効果を持たせたのが「トリートメント」。

そして――。▽最終的に実現しようと目指すのが「目的」、その「目的」に到達する過程で掲げられるのが「目標」。

さて、何のために働くかという肝心の「目的」を理解しないまま、あるいは、させないまま、「目標」だけを掲げて仕事をしていないか?、させていないか?

「目標」もさることながら「目的」を明確に示すことこそ、リーダーの最大の責務だ。

ダジャレ No.754

「なでしこジャパン」の佐々木則夫監督は、今年限りで勇退する意思を表明している。年初の会見でも「2019年のW杯まであと3年余。新しい人に代わるのも一つじゃないか。ちょうどサル年だし、僕も去る」「(今年8月の)リオ五輪では、日本の女子サッカーがいままで獲れなかった五輪での金メダルを目指す。“金が信念”(謹賀新年)だね」 佐々木氏は、いつもこんな感じの「ダジャレ好き」である。

57歳のしょーもないオヤジギャグ、と嗤っては失礼だ。「僕がダジャレを言うのは瞬間を大事にしているから。選手にどんな言葉を発するかを考えるのに、ダジャレはとてもよい練習になる。選手に対してその瞬間々々に言葉を掛ける時、『う~ん…』なんて考えていてはダメ。日頃からバンバン言葉を出す訓練をしていないと出てこない」と佐々木氏(読売新聞2015年6月17日付、要約)。

「ダジャレは高い連想記憶力と豊富な語彙があって初めて生まれる」と脳科学者・茂木健一郎氏も「ダジャレの効用」を認める。連想記憶とは、1つの言葉に対してその言葉の音に似た言葉を瞬時に思い起こす力。脳を鍛えるうえで極めて重要な作業で、「危機的状況の時ほど、リーダーは部下の緊張を解きほぐすため、ユーモアを大いに活用すべきだ。暗い空気を変えて部下をリラックスさせ、潜在能力を発揮できるよう促すのもリーダーの務めだ」(雑誌「プレジデント」2011年10月3日号、要約)と。

「わが県にはスタバはなくてもスナバがある」と、鳥取県の平井伸治知事は47都道府県中で唯一「スターバックス」コーヒーの店舗がないことを逆手に取ったダジャレで地元の観光資源・砂丘をPRし、有名になった。

それにノッたのかどうかはともかく昨年5月、スタバがついに鳥取市内に出店、初日は1000人の客が押し寄せて話題になったが、その1年前には地元企業グループが、明らかにスタバをモジったと思える「すなば珈琲」を開店した。現在は4店舗に増えたほか、全国を車で巡回する移動店舗も展開するなど、平井知事のダジャレは県民の意識を触発し、地域活性化に貢献している。

茂木氏は続ける。「『ユーモアは1日にして成らず』そう簡単に身につくものではない。ユーモア=知性。笑わせて成功するのは、東大に入るより難しいかもしれない」 

お墨付きをもらったのだから、さあ諸兄、臆することなくダジャレを言おうではないか。ただ、“ちなみに”だけど平井知事は、東大法学部卒の元エリート官僚だ。

「日本出身力士」の優勝 No.755

日本経済新聞の12日付の朝刊コラム「春秋」を読み返し、その「前知能力」に改めて驚いた。こう書いていたからだ。「今場所は大相撲史上、節目の一つかもしれぬ。日本人力士の優勝なら何と10年ぶりなのだ」(太字は本紙) 12日付といえば、10日に始まった初場所のまだ2日目が終わったばかり。そんな早い段階で「春秋」子はなぜ「日本人力士」大関琴奨菊の初優勝を予見できたのか。すごい。

今回の琴奨菊の優勝は、ほかにも稀有な記録をいくつか生んだ。再度書くと福岡県柳川市生まれの彼の優勝は、日本人力士としては2006年初場所の大関栃東(東京都生まれ)以来10年ぶりだが、大関26場所目での初優勝は、昭和以降の大関としては千代大海(21場所)を上回る史上最スロー記録。10日目鶴竜、11日目白鵬、12日目日馬富士と大関以下の力士が3日連続で横綱を倒したのは大関霧島以来25年ぶり。さらに31歳11カ月での初優勝は、旭天鵬(37歳8カ月)、貴闘力(32歳5カ月)に次ぐ3人目、等々。ずいぶん遅咲きの彼が、新年早々見事な花を咲かせたことに拍手を送りたい。

ただ、今回の琴奨菊の優勝報道で気になるのは、マスコミの多くが「日本人力士」ではなく「日本出身力士」と表現することにこだわっている点だ。

たしかに大相撲の優勝力士は2006年の栃東以降、白鵬35回、朝青龍10回、日馬富士7回、鶴竜2回、旭天鵬・照ノ富士各1回とモンゴルを中心とする外国出身者ばかり。旭天鵬も、日本に帰化はしたが出身はモンゴルだ。だから、いわばネイティブな日本人・琴奨菊の優勝を、外国出身勢と区別して報じたい気持ちを分からぬではない。

しかし、角界に限らず多くの分野で、多くの外国出身者、日本で生まれ育ったハーフやクオーターが、国籍はともかく「日本人」として日々暮らしている現代。個々の出自や血縁に、そこまでこだわって伝える必要があるのだろうか。

▽「日本出身力士」という言い方にはいろいろな配慮が入っており、逆に差別になっている気がする ▽日本人以外の力士が活躍するのは面白くないという、やんわりした排外主義 ▽「日本出身力士」と連呼すればするほどナショナリズムを煽っている感じがする。そういう感情が生まれるのは理解できても、それを発信してしまう日本のメディアってどうよと思う ――ネット上では今回、そんな声をあちこちで見る。

日本の実態をどう捉え、どう発信していくか、マスメディアの姿勢が問われる。