2013年5月のレーダー今週のレーダーへ

他人任せNo.621

私事で恐縮だが、自分にとっての「空白の30余年」を悔やんだ。昔、何かの会食時に食べた「韓国チヂミ」が口に合わなかったため、以来ずっと避けてきたのに、先日、友人に勧められて食べたそれの、予想外になんと美味だったことか。

長年敬遠してきた「チヂミ」をなぜ突然口にすることになったのかと言うと、最近、友人たちと会食する際は、注文をすべて「他人(ひと)任せ」にするようにしているからだ。食への関心が薄れてきたから、ではない。自分で選ぶとつい、いつも同じような食べ物に偏ってしまう。他人に任せば、普段の自分では絶対に頼まないメニューの中に、未知だったけど好きな味に出遭うかも知れないことに、遅ればせながら気付いたからだ。

「他人任せ」という言葉には悪いイメージが付きまとうが、必ずしもそうとは限らない。「経営の神様」松下幸之助氏は晩年、「思えば、自分の人生には3つの宝があった」と回顧している中で、1つは「家が貧しかったこと」、2つめは「小学校しか出ていなかったこと」、3つめに「身体が丈夫ではなかったこと」を挙げた。

なぜそれらが宝になったのか?―― 松下翁は言う。「貧しかったから、心から豊かになりたいと思った」し、「学歴がなかったから、人の言うことを素直に聞くことができ」、そして「病弱だったから、人を信じて人に任せることができた」と。実際、身体不良から会社を休むことが多かった松下氏は、だから社内組織を細分化し、徹底して仕事を部下・社員に任せた。社員はトップから任されたことによってモチベーションが上がって一層発奮し、そこで多くの有能な人材が育ったともいえる。

漫画「サラリーマン金太郎」の作者・本宮ひろ志氏は、その第1巻の前書きで書いている。「私は幸いなことに絵が下手である。下手だから絵を人に任せられる。おそらく日本で一番、机の前に座っていない漫画家だろう。でも、ブラブラする時間があることは、他の漫画家に比べて有利だと思っている。何事もそうだ。自分の欠点を逆に活かせば、それは他人にない武器になる」 同感である。ただし――。

「任せる」ことは「丸投げする」ことと同じではない点を勘違いしてはなるまい。「任せる」とは、業務遂行上の「実行責任」は任された人が負っても「結果責任」は任せた自分が負うこと。「丸投げ」は、任せた本人が「実行責任」も「結果責任」も負うのを逃げることだ。身近な周囲や、まして自身に、後者の心当たりがないことを祈る。

予定調和No.622

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」 ――川端康成の小説「雪国」の書き出しである。このたった20文字で、読み手をまるで主人公と同じ列車に乗り合わせた乗客の一人のように瞬間移動させてしまう巧みさはさすがだと感心する。

ただし。トンネルを抜けた次の瞬間に主人公が目にした光景は、さてどうだったのか。書き出しに続く文節を、諸兄は覚えていらっしゃるだろうか。

例えばアクション映画・テレビでは主人公がどれほど危険な目に遭っても安心して見続けられるように、ストーリーが予測通り運ぶことを「予定調和」と呼ぶ。テレビ時代劇「水戸黄門」の「勧善懲悪」のストーリー展開はその最たるものだ。しかも「鎮まれ、鎮まれ~。この紋所が目に入らぬか!」と印籠が登場するのは20時45分前後に設定されていると、誰かが詳細なデータをネットに載せていた。過去にそのタイミングをずらした話を作ったところ、放送後、抗議が殺到したという話も本当らしい。

しかし最近は、多くが安心して成り行きを見守っていられる「予定調和」を、むしろ否定する演出が人気を得ている。「エンターテイメントで一番つまらないのは『予定調和』だ」と語るのは「AKB48」をプロデュースする秋元康氏だ。「予定調和」 ――ドイツの哲学者ライプニッツが唱えた本来の意味は難しいが、要は「予想通りに流れが動き、結果も予想通りであること」。その点「AKB48」は、ニューシングルの参加メンバーを「総選挙」と称するファン投票やメンバー同士の「じゃんけん大会」で決めるなど、「予定調和」を極力排し、その結果生まれる意外性に重きを置いている。「人と同じ方向を向いていては大きなヒットは生まれない」と秋元氏。巧みな商策である。

意外性がウケた最近のヒット商品の代表は「羽根のない扇風機」だろうか。あるいは、一見妙な取り合わせの新感覚商品「カップヌードルごはん」も、意表を衝いた発想がマスコミや消費者の興味を引いたことは間違いあるまい。

話を戻そう。「国境の長いトンネル」を抜けた先で、主人公や私たち乗客が目にしたのは、眩しいばかりの銀世界、ではなかった。こう続いている。「夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。」 そう、暗いトンネルを抜けても、列車はまだ夜の闇の中に居たのだ。「予定調和」を裏切る面白さが、実は名作「雪国」にもあった。

「意外だ。でも、面白いよね」と思わせる商品やサービスを、私たちも考えたい。

アインシュタインの教えNo.623

東野圭吾原作の月9ドラマ「ガリレオ」(フジテレビ系列)が、第5週の前回(13日)を迎えても視聴率約18%と好調だ。福山雅治が演じる主人公の准教授が、密室の謎や事件のカラクリを、物理学を応用した推理と検証で小気味よく解き明かして行く。

そんなドラマのクライマックスでいつも画面に流れるのは、文系人間には見ただけで頭が痛くなりそうな難解な数式の数々。というように、物理学と数学はセットになっているように門外漢は思えるのだが、必ずしもそうではないらしい。

数学が不得意な物理学者もいて、アインシュタインもその一人だった。だから彼は、電磁学に関する「特殊相対性理論」では数学者ヘルマン・ミンコスフキーの手を借りたし、「一般相対性理論」の着想も、「ピックの定理」で知られる数学者ジョージ・ピックの助けを得なければ完成させることができなかったとされる。

専門家の話によれば、物理学的なアイディアとそれを証明する数学的能力は、もともと別の分野の話という。にもかかわらず実際に物理の教科書に難解な数式が並ぶのは、物理現象を説明したり再現性を確認するには、数式を使って“後付け”で説明するのが一番分かり易いからだ。物理学にとって最も大事なのは、最初の想像力やヒラメキ、さらに情熱であって、数学が苦手でも基本的には大丈夫なのだそうな。

そう言ってもらって理数コンプレックスが多少緩和されたところへ、アインシュタインが日頃心掛けていたという「10のポイント」を知ると、それら案外の平凡さから、気持ちがさらに軽くなりそうな気がする。いわく――。

①物理を学ぶのに特別の才能は要らない。ただし燃えるほどの好奇心を持つこと ②スマートに解決しようと考えず、忍耐強く取り組むこと ③「今」に集中すること ④創造力がすべてだと考えよう ⑤たくさん間違えてよい。何一つ間違えないというのは、言い換えれば新しいことにチャレンジしていないからだ ⑥瞬間々々を生きよう。「未来」はあっという間に来てしまうものだから ⑦成功しようともがくのではなく、自分の価値を上げることに努力しよう ⑧同じことを何度繰り返しても結果は同じと考えるべきだ ⑨情報は知識にならない。経験が知識になるのだ ⑩ゲームのルールを熟知しよう。そうすれば、ほかの人より賢くプレーできるから――。

「天才」や「偉人」は、要は一生懸命生きることから生まれるものかも知れない。

意識の変化No.624

今年のプロ野球は「名球会」入りが続いている。プロ野球人にとって名誉な「名球会」入りは、打者が2000安打以上、投手は200勝もしくは250セーブ以上の成績を残すことが条件。今シーズンはすでにアレックス・ラミレス(横浜)、中村紀洋(同)、谷繁元信(中日)の3選手が2000安打を達成。打者ではさらに井口資仁(千葉、1952安打)、谷佳知(巨人、1914安打)の両選手が、残り100本を切っている(5月26日現在)。

一方、投手では2008年の山本昌弘(中日)以来、「名球会」入りがない。西口文也(西武、182勝)や石井一久(西武、182勝=日米通算)、黒田博樹(ヤンキース、166勝=同)、三浦大輔(横浜、155勝)が続くが(5月26日現在)、今季中の実現は難しかろう。

以前に比べると200勝を上げる投手が少なくなっている。その理由を、日米通算121勝の吉井理人元投手(野球解説者)は、「最近の先発投手は中6日のローテーションと登板回数が減っているうえ、役割の分業化が進んで早い回で交代するケースも増え、先発しても白星がつくのが難しくなっている」と解説する。また「それ以上に、若い投手たちの中で勝ち星に対する意識が変わってきているのではないか」と言うのはスポーツライター阿部珠樹氏だ。「最近の投手は勝ち星よりも投球回数や、先発した6回を3点以内に抑えるクオリティスタートを目標に選手が増えているように思う」

働く人々の意識が変化してきたのは、一般企業でも同じだ。北海道大学大学院・宮部潤一朗教授は、野村総研「生活者1万人アンケート」の調査結果から「働く人たちの意識が2つの方向で変化している」と指摘する。1つは「会社中心から自分の生活重視へ」、もう1つは「会社=仕事から、会社と仕事の峻別へ」という意識の変化だ。「自分の能力や専門性を高め、社会から認められたいと思ってはいる半面、自分の仕事の目的は、会社を発展させることだとは、必ずしも考えていない」と。

同様の傾向は、日本能率協会が行なった新入社員の意識調査でもうかがえる。「管理職や経営層になってリーダーシップを発揮したい」と思うより、「エキスパートとして専門性を発揮しながら、職場のメンバーのサポート的役割を果たしたい」と考える人が増えている。「先発完投」を目指すわけではない最近の「投手像」に重なる。

だからこそ、社員の意識変化をどう理解し、汲み上げて、会社発展のエネルギーに換えて行くか――トップや管理職の役割が、ますます大事に、難しくなっている所以だ。