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チャックNo.570

検索サイト「Google」は、クリスマスやバレンタインデー、ハロウィンなどの行事日や記念日、歴史的功績のあった人物の生誕日などにはトップページのロゴを普段と違う書体に変え、楽しませている。先月24日の「ギデオン・サンドバックの132回目の生誕記念日」もそうだった。サンドバック―― 衣服や鞄など多くの分野で使われている「ファスナー」を、ほぼ現在普及している形に改良した人物だと、調べて初めて知った。

ファスナーが使われた最初の用途は、ブーツ(長靴)の留め具だったそうだ。それまでブーツの開け閉めには紐かフックが使われていたのを、より簡便にしようと米国の発明家ホイットコム・ジャドソンが1891年にファスナーの原型を考案し商品化。その販売会社になったユニバーサルファスナー社から製品の改良を命じられたのが社員のサンドバックで、10年近い歳月をかけて取り組み、完成させたのだという。発明者ではない彼の功績がいまこうして讃えられるのは、よほど画期的な改良だったからだろう。

古くは「スライドファスナー」と呼ばれた「ファスナー」は、しかし米国では「ジッパー」という呼び方が一般的だ。本来は自動車タイヤメーカーのB.F.グリッチ社が、1921年にブーツ留め具として採用した際、開閉する際の「ジーッ」という音のイメージから「ジッパー」として商標登録、これが広まって定着したからだ。

「ジッパー」以外に「ファスナー」には呼び名がもう1つあることを、年配世代なら知っておられよう。「チャック」である。「…… チャックが開いてるよ」と誰かに小声で教えられ、慌てた経験も一度ならずあると思う。ただ、この「チャック」は日本以外では通じないこともご存知だったろうか。なぜなら「チャック」は、広島県御調)郡向島(現尾道市)の「日本開閉器工場」が1927年ごろ初めて「ファスナー」を製造、関係会社が販売を始めた際の、日本での商標登録。しかも語源は「巾着」の「チャク」だという。昔の財布=巾着のように「しっかり閉める」の意味で名付けられたらしい。

その「チャック」はすでに死語。ということは「口にチャックする」という表現も時代遅れかと使うのを躊躇う必要は、しかしなさそうだ。なぜなら英語で「口にチャック」の意味で使うのは「Zip it!」。その際、合わせた人差し指と親指を口の前で左から右へ動かして閉じるゼスチャー、つまり発想は、国際的に共通しているようだから。 さはともあれ、口にチャックし黙らせておきたい輩が、近頃あちこちに多過ぎないか。

“問われる季節”だからNo.571

「名選手、必ずしも名監督ならず」の例は、たしかに少なくない。しかし、三冠王を三度も獲り球史に「名選手」の誉れを残しただけでなく、中日ドラゴンズ監督として8年間で4度のリーグ優勝に導いた落合博満は、やはり間違いなく「名監督」でもあった。

その落合氏が昨年11月出版した回顧本「采配」がロングセラーになっている。日本出版販売調べ「4月のベストセラー」では「ビジネス本」部門の第4位。さらに、その落合監督を支えた元コーチ・森繁和が先月発刊した「参謀」もまた、2週間で第3刷が刷られる好売れ行きという。チームを離れてなお名コンビぶりだ。

森氏は、落合博満監督の凄さを振り返って、こう書く。「投手出身の監督であれば、信頼できる打撃コーチをそばに置く。打者出身の監督であれば、信頼できる投手コーチを呼んでくる。そこまでは、どの監督も考えるだろうが、そのコーチに選手起用の権限を与えて好きなようにやらせることができた監督はあまり聞いたことがない。(略) いかに、大事なことを部下に任せられるか。そういう点から考えても、落合監督は本当にすごかったと思う。よく、私にすべてを任せてくれたものだ」

企業経営の場で何度も聞くのは「部下への権限委譲が大事」「地位が人を作る」の言葉だ。なるほど人は、大きな仕事を任されることによって、より高い能力を身につけたり発揮したりする。ただし、である。事が順調に進んでいる時はそれでよい。問題は、予想外のトラブルが発生した時だ。部下の采配に不安を抱いたトップは、ついつい口を挟みたくなる。「将」としての「器の大きさ」を問われるのはそこだろう。

落合氏が自分で先発投手を決めたのは、監督に就任した2004年の開幕戦で川崎憲次郎先発投手にした1試合だけ。その後の全試合は、森コーチが決めていたそうだ。

落合氏が書いている。「ドラゴンズは投手力を前面に押し出して戦い、2010年、2011年のセ・リーグ連覇など球団史上特筆すべき成績を残しているが、その土台を築いたのは森コーチである。監督である私が貢献したことがあるとすれば、森をコーチに据え、すべてを任せたことではないだろうか」 こうまで言い切れる人はそんなにいまい。

企業では新年度からの人事体制が1カ月半経ち、そろそろ“収まり”がよくなってきた頃。言い方を換えれば、新しいリーダーたちの能力・器量が、真に問われ始める。だからこそ、「采配」 と 「参謀」 2冊で2900円ほどの自己投資は、決して高くないと思う。

無くしてみると…No.572

京都・亀岡市で、愛知・岡崎市で、千葉・館山市で、徳島・阿波市で、登下校中の生徒の列に暴走車が突っ込んで起こした痛ましい交通事故の連続に胸が痛む。

通学路や生活道路でのそうした事故を減らすため、従来あった“あるもの”をなくしてしまおうという動きが最近、各地に広がっている。道路中央に引かれた「センターライン」である。幅5.5m以上の道路にはセンターラインを引くことが法令で定められているが、その内側を走っている限り、車は対向車と擦れ違っても接触する心配がないことを運転者は分かっている。その安心感から、つい速度を早めて事故の原因になる。

そこで、センターラインがなければ運転に慎重になり、速度も落とすはず、という心理効果を狙って、愛知県が2001年から一部道路でセーターラインを消した。すると予想的中。実施前と後1年間の比較では、通る車の平均時速は53kmから46kmに落ち、人身事故は71%、物損事故は44%減った。「あったもの」をなくして成功した例だ。 一方、「あったもの」をなくしてみたが、微妙な結果になっている話もある。学校で授業の始まりと終わりを告げる「チャイム」である。始業チャイムが鳴ってもなかなか席に着かない子供たちが年々増えてきた。そこで神戸市のある小学校が、始業・終業のチャイムを鳴らすのを止めてみた。すると、最初は混乱していたが、徐々に、数分前に着席して待つようになり、遅刻も減って、良い効果が表われた、というのだ。

なるほどそれは名案 ―― というので「ノーチャイム」制度を採用する学校が、一時は全国で1000校近くに増えたそうだ。が、最近はまたチャイムを復活させる学校が増えてきたらしい。子供たちがだんだん慣れて、再びルーズになってきたからだ。

「あったのに、最近なくなってきた」現象のもう1つは、ビジネスマンの「ネクタイ」だろう。地球温暖化対策として2005年から始まった軽装化の奨励に節電対策も加わった今年は、クールビズ運動がこれまでより1カ月早い5月から始まった。ただ、誰もがそれを歓迎しているわけではない。嘆いているのはネクタイ業界だ。煽りを受けて、2005年に4027万本だったネクタイ生産は、昨年は2922万本と27%も減ってしまった。とくに国産品は1165万本から571万本に半減。来月第3日曜日は「父の日」だが、かつてプレゼントの定番だった「ネクタイ」は、いまや広告チラシからも消されている。

「有ったものを、無くす」 ―― 画期的でも、すべてがうまくいくとは限らない。