コラム


 若者に優しくない時代  No.543
 「政府の「社会保障と税の一体改革」方針に基づいて始まった厚生年金の支給開始年齢引き上げ論議。しかし現役世代からの反発の大きさに怯んだのか、小宮山厚労相は「法案を来年の通常国会に提出することはない」と結論先送りの姿勢へと早々に転換した。

 いずれにせよこの問題で報道番組に顔を出す比較的高齢の経済専門家の多くは、同世代の意見を代弁するかのように「年金支給開始の年齢まで人々が働くことができるよう、社会的、経済的環境を整える必要がある」と話す。

 たしかにそれもそうだ。ただ、どの企業もいま至上課題を、最大の経営コストである人件費の圧縮に置いている環境下、退職年齢を引き上げる方向に政策を誘導することは、他方で、若い世代の雇用環境をさらに厳しくすることに当然つながる。新卒求人の抑制や強引な「内定切り」などが放置されている状況を見て、「この国の政治は最近、若者世代に優しくない」との声が少なくない。

 優しくない理由は、「若者たちが選挙に行かないからだ」との指摘がある。政治に対する国民の無関心層の広がり=有権者の「選挙離れ」はいまに始まったことではないが、近年とくに20代有権者の、選挙における投票率の低下が顕著だ。

 昨年7月の参院選で全世代平均の投票率は57.9%(総務省調査)だった。しかし年代別にみると、60代の投票率は75.9%、70代でも74.1%だったのに対し、20代は36.2%。その差は40%近い。また有権者数でも60代以上が全有権者数の39.3%を占めるのに対し、20代は12.6%にとどまる。こうした状況下では、有権者の1票を「政治生命を保つ血の一滴」と考える政治家の思考・行動が、有権者数が多く投票率も高い高齢者層に顔を向けた方向に傾かざるを得ないのは当然といえよう。

 政治の世界で軽んじられる若者も、ファッションでは彼らが主役だ。しかしその最近の主流は低価格のファストファッションであり、またネットオークションで安い中古衣料を探したり、唯一高価な成人式衣裳も借りて済ませるなど、「デフレ化」が止まらない。こうした傾向を「消費がスマホ代などに向いてしまっているから」と諦めてよいはずはない。なぜなら、非生産物への支出は、経済の循環的拡大に寄与しないのだから。

 政治→経済→消費は見えない鎖でつながっている。現在の消費不況が、若者に優しくない政治に一因があるなら、経済界としてそのことを見過ごせない。

コラムバックナンバー

What's New
トップ
会社概要
営業商品案内
コラム
大型倒産
繊維倒産集計