コラム


 深層崩壊  No.536
 今年は災害が多過ぎないか。日本列島をノロノロ縦断した台風12号。死者48人、行方不明58人(7日現在)という人的被害は、台風としては平成に入っての最悪になった。

 加えて、専門家が今回注目しているのは、紀伊半島の数カ所で「深層崩壊」とみられる山崩れが発生したことだ。田辺市伏菟野地区では高さ250mの山が頂上から裾野まで幅数百mにわたって崩れ、死者1人、行方不明者4人を出した。「木が、地面に立ったままの状態で山から流れてきた。見たことのない崩れ方だった」と住民が驚く。

 一般の土砂災害は、山の斜面を覆う厚さ数mの落葉層や土壌層が滑り落ちる「表層崩壊」。これに対して「深層崩壊」は、大量に降った雨が土中に沁み込んで岩盤の割れ目に貯まり、一定の限界を超えると、その水圧に耐えられなくなった岩盤が剥がれ、数十mから場合によっては100m近い厚い地層ごと一気に滑り落ちる。

 国土交通省・土木研究所によると、1868年(明治元年)~2010年8月の間に確認されている「深層崩壊」は122件で、それほど多くない。しかし、1980年代9件、1990年代13件、2000年代21件と増加傾向にあるのが気にかかる。人的被害を伴った例では、1889年(明治22年)奈良県十津川村(死者168人)、1997年(平成9年)鹿児島県出水市(同21人)、2003年(同15年)熊本県水俣市(同19人)など。当時「土砂崩れ」とか「土石流」と表現された山崩れは、実は「深層崩壊」だったという。

 土木研究所は昨年、地形条件などから推測して「深層崩壊」が起き易いと推定される都道府県マップを発表した。それによると1.高知 2.宮崎 3.長野 4.和歌山 5.徳島などで発生確率が高いとされる。その和歌山に、今回は台風12号が大雨を降らせた。

 加えて、台風が年々大型化する不安も指摘されている。理由はやはり地球の温暖化。南シナ海で発生した台風は、北上するにつれて空気が冷やされ、勢力が弱まるが、海水温が高いと、勢力を維持したまま進み、広範囲に大雨を降らせる。その雨がさらに、大規模な「深層崩壊」を引き起こす連鎖的現象が恐い。そして、恐いと言えば……。

 「深層崩壊」の言葉を何度も書いていると、だんだん別のことが気になってくるのだ。恐いのは山だけなのかと。たとえば政治、たとえば社会、たとえば文化、たとえば倫理観、たとえば人間関係 ―― 私たちはいま多種多様な「崩壊の危険性」を、社会や企業組織の深層に抱え込んでいないだろうか。そこには、参考にする「推定マップ」もないのに、と。

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