コラム


 幸せって何?  No.533
 今日あたりから夏休みが明けた会社が多いのではあるまいか。ここ数日のテレビニュースでは、海外旅行から帰ってきた家族連れの明るい笑顔が映っている。ただ、例年ほど賑やかな帰国ラッシュではないように見えると思ったら、夏休み期間中(7月14日~8月31日)に成田国際空港を利用するのは推計343万人で、昨年より14%少ないそうだ。東北大震災はやはり、私たち日本人に、日常の生き方や暮らし方を、ちょっと立ち止まって考え直すきっかけになったのだろうか。

 「幸福のパラドックス」―― 米国の心理学者ブリックマンとキャンベルが1971年、調査結果から導き出した説がある。「従来、経済的成長と人間が感じる幸福度とは正比例の関係とされてきたが、一人当たりGNPが1万ドルを超えるあたりから、収入の増加と幸福感は比例しなくなる」というもの。収入が増えても幸せだと思わなくなる?――そんなはずはなかろうと筆者のような貧乏人は思ってしまう。しかし――。

 ブリックマンは、宝くじで大金を手にしたばかりの当選者たちに「どれだけ幸せになったか?」を聞いた。全員が「以前よりはるかに幸せになった」と答えたのは至極当然だろう。ところが1年後、同じ人に同じ質問をした結果は、ほとんどが「幸福感はあまりない」と答えたそうだ。

 ひるがえって、日本。「わが国GDPは1950年代から80年代への30年間で6倍に増えた。しかし日本人の主観的幸福感の平均値は、ほとんど変化していない」と大阪大学の筒井義郎教授。内閣府「国民生活選好度調査」でも実際、日本人の「幸福感」の平均値は10点満点中の6.5点にとどまっている(2009年調査)。つまり所得の多さ、物質的豊かさが、幸福感=心の豊かさには必ずしもつながっていないのが現実なのだ。

 経済的・物質的な豊かさを測るGDPでなく、国民が感じている精神的豊かさを測るGNH(Gross National Happiness=国民総幸福量)というモノサシがある。世界178カ国を対象にしたGNHランキングで日本は90位(2006年)。世界の最貧国の1つと言われるブータンでは国民の9割が「幸せ」と答え、9位にランクされているのにだ。

 筒井教授は指摘する。「『幸福のパラドックス』の悲しさは、自分は幸福か不幸かを、他人との所得差で比べる考えから始まる」と。そうした基準から放れない限り、私たちはいつまで経っても、心穏やかに、幸せを感じることはできないのかも知れない。

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