コラム


 見える化  No.531
 GDPが日本を追い抜き世界2位の大国になっても、中国という国は相変わらず実態が不透明なままなのだと、高速鉄道の事故をめぐる対処を見てつくづく思う。

 落雷の影響で先行列車が停車したのが原因だと最初発表した。しかし、時刻表では先を走っているはずの後続列車がなぜ時速110km超でブレーキもかけずに追突したのか。死者39人、負傷者211人という当局の発表だが、少なくとも400人余が乗っていたとみられる後続列車の、差し引き200人前後の乗客はどこへ消えたのか。現場検証に充分な時間を取らず、事故後38時間で運転再開を急いだ理由は何なのか。後続列車の先頭車両を分解して埋め、翌日に再び掘り起こしたのはなぜなのか?―― 等々の多くの疑問に、やっと現場を訪れた温家宝首相が自らの口で明らかにすることはなかった。

 「なぜなぜ5回」という言葉を思い出す。トヨタ「カンバン方式」の生みの親・大野耐一氏が、現場で起きたトラブルの原因を究明する手法として提唱した。一、なぜ機械は止まったのか?→軸受けの潤滑が不充分だったから 二、なぜ潤滑は不充分だったのか?→潤滑ポンプの軸が磨耗し汲み上げが不充分だったから 三、なぜポンプ軸は磨耗したのか?→切粉が入ったから 四、なぜ切粉が入ったのか? 五、ろ過器がついていなかったから――「なぜ」を5回繰り返して原因を徹底的に究明し、対策を講じることによって多くの「カイゼン」が生まれ、トヨタは生産効率と品質の大幅な向上を実現した。

 この「なぜなぜ5回」の考え方は、その後進化して「目で見る管理」になり、最近はさらに多くの企業が採り入れる「見える化」ブームにつながっている。例えば「不良在庫の見える化」(住宅機器メーカー)、「ヒヤリハットの見える化」(化学メーカー)、「全店情報の見える化」(大手スーパー)、「失注理由の見える化」(設備機器メーカー)等々。

 ただし――。早稲田大学大学院・遠藤功教授がいう。「さまざまな事象を『見える』ようにするのは人間である、という原点を忘れてはならない。本来『見えない』『見せたくない』のだから、『見せよう』とする意思、『見える』ようにする知恵――その2つがないと『見える化』は実現できない。逆に言えば、意思が薄らぎ知恵を絞らなければ、いつ見えなくなってもおかしくない。そして、見えなくなってしまった企業では、崩壊が始まるのだ」(著書「見える化― 強い企業をつくる『見える』仕組み」)

 「企業」を「国家」に置き換えても同じだと、中国を見て思う。否、日本でもだ。

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