コラム


 鼓動を  No.527
 きっかけを知りたくて、時間をかなり割いて調べたが、分からなかった。しかしだからといって、そんな話題でいま現地へ直接取材するのは、さすがに、はばかられた。

 今回の震災で市全体が壊滅的打撃を受け、死者・不明者が人口2万3000人の1割近くに及んでいる岩手県陸前高田市は、毎年10月、地元だけでなく全国からチームが集まって「全国太鼓フェスティバル」が開かれる「太鼓の町」であることを最近知った。

 だからだろう、沈みがちな市民の気持ちを盛り上げようと5月末、同フェスティバルに毎年参加している宮崎・福島両県のチームと地元の計5チームが、市内の小さな広場でミニコンサートを開いた。地元のメンバーの中には親を亡くした子もいた。にもかかわらず、小学生から大人まで男女十数人が、一糸乱れることなく懸命に太鼓を打ち鳴らしている姿を動画サイトで観て、滲む涙を抑えられなかった。

 太鼓は、古今東西を問わず古くからあるリズム楽器だ。ただ、その音色や響きに、日本人ほど深い「思い入れ」を抱いたり感じたりする民族は他に例がないらしい。科学的根拠がある。東京医科歯科大学元教授の角田忠信氏によると、外国人は、例えば「川のせせらぎ」や「虫の音」などを「右脳」で聞き「雑音」として見做して聞き流すのに対し、日本人はそれら自然音を「左脳」で聞き、「言語」的に取り扱う違いが分かっている。その日本人は、太鼓の音もまた「左脳=言語脳」で聞いているのだそうだ。

 日本人と外国人とのそうした違いは、外国語の多くは2000Hz以上の音を多く含む「子音」主体の言語であるのに、日本語は500~1000Hzを主に使う「母音」主体の言語であるという違いにも因るらしい。自然音や太鼓の音は500Hz以下が多いと知れば、日本人が太鼓の音に無意識に何かを感じ、魅かれる理由を理解できよう。また歌舞伎で、太鼓を細いバチで細かく「パラパラ」と打てば「雨」、静かに「ドンドン」と打てば深々と降る「雪」、「ドロドロ」と打てば「幽霊」の登場などと表現する約束事を、観客も理解して受け入れる日本特有の「太鼓文化」の背景もそこにありそうだ。

 今年のフェスティバルの、陸前高田市での開催は無理になった。しかし、復興支援で現地へ行った名古屋青年会議所が事情を知って協力を申し出、今年はナゴヤドームで10月1日に代替開催することが決まったそうだ。その22年前の第1回大会でのキャッチフレーズは「いのちは鼓動から始まる」。同じ言葉を、もう一度掲げてはどうか。

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