コラム


 決断×専断  No.524
 「民主党政権が誕生してからまだ1年10カ月。それなのに、当時抱いた期待と現実との大きなギャップに失望感を抱いている国民が少なくないのではあるまいか。

 退陣時期を明確にしない菅首相を、往生際が悪いとは思う。ただ、一国の宰相の進退というものは本来、最後の最後まで明らかにされるべきではないという考え方も理解できるから、その点には触れまい。しかし、15日の3党国対委員長会談での安住淳民主党国対委員長の発言には驚いた。小規模にとどまる見通しの2次補正予算について菅首相が「1.5次予算」と意味ありげな言い方をしたことに関し、石原伸晃自民党幹事長が「2次補正ですよね」と確認した。すると、安住氏がこう答えたそうだ。「そうじゃなかったら、後ろから(首相の)首を締める」(産経新聞) 許される表現と許されない表現がある。「君は軽い」と激怒したという漆原義男公明党国対委員長の良識に拍手する。党幹部がこれでは、軽すぎるのは民主党全体と国民に思われて仕方なかろう。

 昨今の国政を見るにつけ、幕末―明治の政治家・西郷隆盛の言葉を集めた「西郷南州遺訓」の一節を思い出す。「真に賢人と認むる以上は直に我が職を譲る程ならでは叶わぬものぞ」(本当に賢明で適任だと思う人がいたら、すぐに自分の職を譲るぐらいでなければならない) 「ポスト菅」候補としてマスコミが勝手に挙げる顔ぶれを見ながら溜め息が出る。私たちが知らないだけかも知れないが、民主党のみならず自民党にも、つまり日本の政治の世界には、宰相たり得る人材がいないのではないかと。

 リーダーに求められる資質の一つは「決断力」だが、「決断」は「専断」とは違う。「専断」は古くは「擅断」と書いた。「擅」はその1字だけで「ほしいまま」と読む通り、「専断」は「自分だけの考えで勝手に物事を決めて行うこと」。たとえば鳩山さんが普天間基地移設問題で突然「最低でも県外」と言い、前原さんが「八ッ場ダム中止」と言い、菅さんが「TPP加盟」を言い出したように。そのたびに周囲が混乱する。

 「決断」するには3つの過程が必要なのだ。第1は、どんなに優秀なリーダーでも見落としはあるから、周囲の意見を可能な限り聞くこと。第2は、自分とは異なる意見を、意識して聞く姿勢を忘れないこと。第3は、できるだけ衆知を集め、その決定に関わり、かつ遂行できた時の喜び、満足感を共有できるように努めることだ。

 いつも思う。企業経営者や組織長にとって、政治の世界は絶好の「他山の石」だと。

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