コラム


  余裕の大切さ   No.518
 深刻度を示す「国際評価尺度」が「チェルノブイリ」(1986年)と同じ最悪の「レベル7」に引き上げられた東京電力・福島第1原発の事故。一方、同じ津波に襲われたにもかかわらず宮城県石巻市の東北電力・女川原発は、大きな被害がなかっただけでなく、敷地内の体育館が被災者を守る避難所にさえなった。この違いは一体なぜなのか?

 福島、女川とも押し寄せた津波の高さは14m超。しかし、事前の「備え」がまったく違っていた。福島原発では、津波の想定波高を最高5.7mに設定し施設を建設していた。このため、想定の倍を超える今回の大津波で、施設・設備が甚大な被害を受けた。他方の女川原発は、過去に何度か津波に襲われた経験を生かして想定波高を最高9.1mに設定していたうえ、さらに重要施設を14.8mの高さに建てていたため、大きな影響を受けなかった。事前の備え、つまり「余裕」の有無が、結果に雲泥の差を生んだのだ。

 今回の大災害は、日頃から「余裕」を持つことのいかに大事かを教えた。原発など重要施設に限るまい。私たちの日常生活や、企業経営もまた同じだ。

 企業経営には「安全余裕率(度)」というモノサシがある。「損益分岐点をどの程度上回る売上高の余裕があるか」を見るもので、「(売上高-損益分岐点)÷売上高×100」の計算式で算出される。目安としては一、40%以上=安泰 二、25~40%未満=健全 三、15~25%未満=普通 四、5~15%=要注意 五、5%未満=危険――と判断される。震災前からの長期不況に震災後の経済活動の混乱と停滞が加わった現状では、「余裕率」が5%未満どころかマイナスに陥っている企業も少なくあるまい。

 松下幸之助翁の教え「不況克服の心得十カ条」も知られるところだ。第一条=「不況またよし」と考える 第二条=原点に返って志を堅持する 第三条=再点検して自らの力を正しくつかむ 第四条=不退転の覚悟で取り組む 第五条=旧来の慣習・慣行・常識を打ち破る 第六条=時には一服して待つ 第七条=人材育成に力を注ぐ 第八条=「責任は我にあり」の自覚を持つ 第九条=打てば響く組織づくりを進める 第十条=日頃から成すべくを成しておく、というもの。その第六条「時には一服して…」こそ、不況時にはあまり無理せず、腹を据えて構えることの大事さを諭す「余裕のすすめ」だ。

 企業経営に求められる「3つの余裕」は結局、「カネの余裕」「モノの余裕」と、そして経営者が持つべき冷静な判断、すなわち「気持ちの余裕」ではなかろうか。

コラムバックナンバー

What's New
トップ
会社概要
営業商品案内
コラム
大型倒産
繊維倒産集計