関東地方に「春一番」が吹いた ――と気象庁が先月25日発表した。立春を過ぎてその年に初めて吹く南寄りの強い風が「春一番」。では、「雨一番」を存知だろうか。 北海道など北国でその年初めての、雪が混じらない雨をそう呼ぶ。札幌なら例年3月半ばの「雨一番」が、今年は今月17日にすでに降った。しかし、気象庁はそれを発表していない。なぜなら「雨一番」という表現は、のちに元祖「お天気おじさん」で知られるようになった札幌気象台元予報課長・倉嶋厚氏が退官後に言い出した言葉。つまりOBとは言え民間人が発案した表現を、気象庁は公式認定しない方針らしい。 「春雨」と聞くと、行友李風作の新国劇「月形半平太」の名セリフを反射的に思い浮かべる諸兄も、本欄の読者層には少なくなかろう。京都・三条の宿を出ようとした月形に、愛人・雛菊が傘を差し掛けながら言う。「月様、雨が…」「春雨じゃ。濡れてまいろう」 大向こうから「ご両人!」の声が掛る名場面だ。 春の雨は小雨がほとんど。だから傘を差さず濡れて歩くのが粋で風流だから……と思っていたら、違うらしい。国語学者・金田一春彦氏が著書「ことばの歳時記」で書いている。「盆地の京都にこの季節に降る雨は、空から落ちてくるのではなく、むしろ風で吹き上げられるように横から降り込んでくる霧雨だから」と。あの木下恵介監督も1954年(昭和29年)製作の映画「女の園」の中で、高峰三枝子が演じる国文学教授にこう言わせた。「京都は、地勢の関係か気象の関係かは知りませんが、春雨は上から下に降るのではなく、右から左、左から右へさーっと降るので、傘は必要ないのです」 「春雨」が落ちる速度を、ブログで計算してくれた人もいる。物体が落下して速度が増すと空気抵抗が増し、やがて動力と空気抵抗と浮力が釣り合って一定速度で落ちるようになる。これを「終端速度」というが、春雨のように雨粒が小さい場合は秒速10cm(時速10.8km)程度。だから、横や下から少し強い風が吹くとすぐそれに影響されるから、傘は無駄なのだと。こういう奇特な人が世の中に居てくれることが、嬉しい。 クライストチャーチの地震に関心を奪われている私たち。けれど九州・新燃岳では、雨が降ると土石流が一気に駆け下り、麓に甚大な被害を生み出す危険をはらんでいる。さらに、小規模噴火や地震が観測される現政権も、大爆発、大規模な火砕流・土石流が発生する恐れもある。「春雨」を愉しむ余裕など、とてもなさそうな現実が辛い。 |
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