コラム


  「民族の冬」   No.505
 最近よく目にする健康食品「××」のテレビCMには、三国連太郎や八千草薫など各界著名人が代わる代わる登場する。高そうな出演料をそれだけ投じられるのは、よほど儲かっているのか、それとも……などという勝手な憶測はさておくとして、やはりそのCMでベテラン俳優のN氏が「団塊の世代は××世代」と宣伝している。たしかにN氏は1947年(昭和22年)生まれ。彼ら47~49年の戦後のベビーブームに生まれた「団塊の世代」は約670万人で、最近3年間の出生数320万人の2倍強にも及ぶ。

 「団塊の世代」という呼び方は、経済評論家・堺屋太一氏が1975年(同50年)に執筆した小説の題名に由来する。4話構成で日本の近未来を予測していた。

 第一話「予機待果」は、日本経済は高度成長後の深い停滞の谷に落ち込んだ1980年代前半が舞台。売り上げの伸びが止まった電機メーカーに勤める団塊世代の企画課長が、打開策として、コンビニ経営という新分野への進出に挑む。当時の日本は、コンビニは試行店がまだぼつぼつ現れ始めた時代だった。

 第二話「三日間の反乱」は80年代後半。自動車メーカー勤務の団塊世代の中堅社員が、工場跡地の売却を阻止しようと奮闘する。土地神話にすがる企業の猛進というより「盲進」がバブル経済を招き、のちに大きな悔いを残すことになる根源を描いた。

 第三話「ミドル・バーゲンセール」は90年代半ば。終身雇用、年功序列が崩壊、銀行の中間管理職だった団塊世代の主人公が、取引先企業への出向を命じられる。小説が書かれた当時、銀行がリストラを迫られる時代が来るとは誰も考えしなかった。

 第四話「民族の秋」の舞台は2000年。年金や福祉予算の増大から引き起こされた財政危機をどう建て直すか、国家財政を運営する最前線の現場で苦悩する、やはり団塊世代の総理府参事官の姿を描いた。

 ――等々、堺屋氏はこの小説で、当時の日本ではまだ予知どころか想像もされていなかった今日的社会問題の到来を、いくつかを的中させた。とりわけ第四話で指摘された国家財政の危機的状況は、堺氏の予測を、大きく、かつ早く超えて到来した。

 小説「団塊の世代」は、最後の数行をこんな会話で終わっている。「日本民族の春と夏は短かった」「そうか、今は民族の秋か」「冬の準備を急がねばならん…」

 あれから36年。準備不足のまま迎えた厳寒の中、私たちはいま、凍え、震えている。

コラムバックナンバー

What's New
トップ
会社概要
営業商品案内
コラム
大型倒産
繊維倒産集計