「現下の不況から顧客の消費意欲が後退し…」などと各種の月次報告等でよく目にする「消費意欲」の表現。たしかに「削減」「縮小」「後退」「破たん」「失業」等々「負のキーワード」ばかりが目につく昨今、人々の「欲」も消沈して当然だろう。米国の心理学者マズローは、人間の欲求を5段階に分ける「欲求の段階構造」説を唱えた。第1段階=飲食、睡眠、排泄などの「生理的欲求」、第2段階=住居、衣服など安定・安心した環境に身を置く「安全欲」、第3段階=集団に所属し、愛される「社会的欲求」、第4段階=他人に認められ、尊敬される「承認欲求」と続き、第5段階=自己の潜在能力を最大限に発揮して目標を成就・達成したいと願う「自己実現欲」に至る。 マズロー説のポイントは、これら5つの欲求は、低次の欲求が満たされるとワンランク上の欲求が高まり、その欲求を満たすための行動を起こすようになる点にある。たとえば体を壊した病床で第一に願うのは、まず健康を取り戻すこと(生理的欲求)。決して一気に「気に入った服を買いたい」(安全欲)とか「出世したい」(社会欲)とかを望みはしない。高次の欲求は、まず低次の欲求が満たされることが前提になる。 では、いま日本で起きている消費意欲の伸び悩みは、低次欲求がまだ満たされていないことに因るのかといえば、決してそうではあるまい。ほとんどの家庭で、生活に必要な家具・家財、物資はすでに買い揃えられ、逆に収納し切れないほど溢れかえってさえいる。だからこそいま、家の中のガラクタを整理する「断捨離」の考え方が、今年の新語・流行語大賞の候補60語にノミネートされ、注目されている理由だろう。 「断捨離(だんしゃり)」―― 生活コンサルタント・やましたひでこさんが10年ほど前から提唱していた。自身が学んでいたヨガの「断行=食欲を断つ断食など欲を断つ」「捨行」=地位・肩書きを捨てる」「離行=“慣れ”に気付き、日々の惰性から離れる」という思想を日常生活の「片付け術」に採り入れ、「断=入ってくる不要の物を断つ」「捨=ガラクタを捨てる」「離=物への執着心から離れる」ことを勧める。身の回りを整理整頓するだけでなく、片付けを通して自身の内面を見つめ直す機会にすることを説いている。 知らず知らずに囚われていた物欲から自分を解き放つのにも、「断捨離」ブームは好機。今年は本格的な大掃除をしてみてはいかがか。せめて力仕事で存在価値を示さないと、やがて奥方から「男捨離」の憂き目に遭いそうなご同輩も少なくなさそうだし。 |
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