コラム


  弱気遺伝子   No.489
 某日夕刻、某テレビ局のニュース番組で。「押尾学被告の保釈について決定が下りました。さあ、どうなったでしょう」と男性キャスターが身を乗り出ようにして切り出す。だからこちらもつい「ほほう、どうなったの?」と聞く体勢を身構えた次の瞬間、「ジャジャーン」…… 騒々しい音楽とともに、画面では何かのCMが始まった。

 視聴者の興味をそそるようなナレーションを発しておきながら、しかしその結論を知らせないままCMに入ることによって、CM中に視聴者がチャンネルを他局に切り替えるのを防ごうとする、あざとい出し方のCMを「山場CM」という。慶応大学・榊博文教授(社会心理学)が2002年に行なった「番組内CM提示タイミングが視聴者に与える影響に関する調査」結果をもとに分析し、そう名付けた。

 1990年代から始まったとされる日本のテレビ界での「山場CM」は、調査当時で全番組のほぼ40%。現在ではニュース番組でも始めているほどだから、50%を超えているに違いあるまい。いずれにせよ、調査時点で米国14%、英国6%、フランス0%など他国の状況と大きく異なる原因は、海外ではCM挿入の回数や時間量、挿入方法などが法律で定められている国が多いのに対し、日本は無規制の野放し状態にあるからだ。

 そんな「山場CM」を、日本の視聴者の86%が「不愉快」であると先の調査結果で答えている。他方、「クイズ番組で正解が出る前にCMが出たら、テレビ局には視聴者から抗議が殺到して大変なことになる」との英国人、フランス人のコメントも同調査にはあった。それなのに、日本で「山場CM、反対!」の大合唱が起きないのは、なぜか。

 日本人は生まれつき「弱気の遺伝子」を持っている、との説がある。ドイツの医学者ピーター・レッツ教授が1996年に発表した研究よると、「セロトニン」という、攻撃性を抑える脳内の情報伝達物質を運ぶ遺伝子にはS型・L型の2タイプがあり、S型は不安を感じやすい遺伝子。そのS型遺伝子を、欧米人は10~20%しか持っていないのに比べ、日本人は98%がS型遺伝子を持っており、また、S型遺伝子しか持っていない人が70%に及ぶ。つまり日本人は心配性で、物事を不安視し、臆病な人が多いということ。

 認めたくはないが、日本人の我慢強さは「弱気遺伝子」のせいなのだろうか。だから、「山場CM」に文句を言わず、はたまた、尖閣諸島問題をめぐる中国の横暴に対しても、妙に腰の引けた対応になってしまうのか。いずれも、腹立たしいこと極まりない。

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