コラム


  古き“良き”時代?   No.482
 結局どこへも出掛けなかった夏休み。ぶらり覗いた自宅近くの図書館で、題名に目が止まった1冊を興味本位で借り、読んだ。「大正時代の身の上相談」(カタログハウス編)。

 読売新聞が1914年(大正3年)5月、その1カ月前にフランスの新聞「フィガロ」が設けたのを真似て始めたのが日本の新聞の「身の上相談」欄の始まりだそうだ。現在はタイトルが「人生案内」に変わったが、以来96年続く「身の上相談」の、大正3~11年に掲載された中から129編の相談・回答を、本書はまとめている。当時の庶民の悩み事や物の考え方、世相をうかがい知ることができて面白い。たとえば――。

 ▽許婚がある私なのに、以前ほかの男子に接吻されたことがある。こんな汚れた身で純潔な夫と結婚する資格はなく、一生独身で送ろうと思うがどうだろうか ▽父のない私には、頼りにする殿方がいる。しかし、その方を慕えば慕うほど、結婚などという解答をつけたくはなく、ただ兄上として仕え、自分は宗教生活を送ろうと考えている。世間に疎い私の行く道を教えてほしい ▽某官庁に奉職する私は、気立てのよい下宿の娘を妻にすると心に決めていたところ、上司の娘との縁談が持ち上がり、両親は後者を勧める。どうすればよいだろうか――等々。いま言えばなんと初心で微笑ましい「悩み事」の数々ではないか。そういう「日本」が、昔はあった。

 ただ――。隔世の思いを強くするのは、当時の相談者たちの悩み事の、内容や質の純真さに対してだけではない。当時は、識者や専門家でなくコーナー担当の記者数人が持ち回りで書いていたという回答者連の、大胆な「直言」ぶりにも目を丸くする。

 自分と同じ男性を好きになった親友にどう接すればよいかと悩む女性に、回答者は単刀直入「あなたが理想的な立派な女になるためには、自身を犠牲にし、親友の思いを達してあげなさい」。見合い結婚した40歳夫の女遊びを打ち明けた12歳年下の妻には、「夫ももう分別期。あなたが心がけを良くして真心を尽くせば、やがて平和な家庭が訪れるのだから、辛抱が肝心」。勉強していても本を読んでいても、通学途中で隣り合わせになった若い娘さんのことが脳裏に浮かんで困るという20歳青年には、「夜寝る前に冷水で頭を洗う習慣をつけたら、そういう苦しみは薄くなる」。

 ウーム。「大正ロマン」とは言うけれど、現代の価値観や倫理観のまま当時を暮らしてみたら、さて本当に「古き“良き”時代」と思えるかどうかと、考えてしまいません?

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