コラム


  負けてはいられない   No.481
 「ねえ 不幸だなんて 溜息をつかないで/陽射しやそよ風は えこひいきしない/夢は 平等にみられるのよ/私 辛いことが あったけれど 生きていてよかった/あなたもくじけずに」――「くじけないで」と題するこの詩の作者が、まさか1911年(明治44年)生まれの99歳だと、一読しただけで分かった人はおそらくいまい。

 柴田トヨさん。92歳で夫に死別後、息子に勧められて始め、新聞などに投稿していた詩を昨年、自費出版。評判を聞いた出版社に背を押され今年3月商業出版したところ、7月末で実に25万部を超すベストセラーになっている。著名詩人でも3000部が限度といわれるこの分野では前代未聞の売れ行きという。

 しかし、読めば人気の理由が分かる気がする。「私ね 人から やさしさを貰ったら 心に貯金しておくの/さびしくなった時は それを引き出して 元気になる/あなたも 今から積んでおきなさい 年金より いいわよ」(「秘密」) ほのぼのとして心安らぐ。

 「トヨさんの心の中で眠っていた詩の天使が目を覚まし、人生の晩年に歌い出したのだと思う。少しも枯れていない少女のような声で」と漫画家で詩人のやなせたかし氏が某新聞紙上での書評に書いていた。女性が使う「私」という言葉の優しさや円やかさ、温かさを、彼女の詩で改めて知った思いがする。

 それにしても99歳で……と驚くのは、しかしまだ早いかも知れない。

 「ぞうさん ぞうさん おはなが ながいのね/そうよ かあさんも ながいのよ」と 誰でも歌える童謡「ぞうさん」の作曲は故人の團伊久磨だが、作詞は1994年(平成4年)に日本人として初めて世界最高の児童文学賞「国際アンデルセン賞作家賞を受賞したまど・みちお氏。1909年(明治42年)生まれ、101歳の彼は、アルツハイマーで入院しヘルパーの世話を受ける身でありながら、現在も詩作活動を続けているどころか、昨年11月には2冊の新作詩集「のぼりくだりの…」「逃げの一手」を相次ぎ出版した。

 「自信か 身なりか 字を野次れ 恐れるな 良いか な!」という、「自分へ」と題するまど氏の一編には「ヒント=地震、雷、火事、おやじ」と添えられていたが、それでも詩の意味を読み解く力は、筆者にはなかった。彼の感覚の鋭さ、脳の若さに驚く。
 「人生はいつだってこれから。何を始めるのも遅すぎることはない」と、やなせ氏。そう、凡人とはいえわれわれも、「白寿パワー」に負けてはいられませんよね、同輩・諸兄。
 

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