コラム


  負けを認める   No.457
 バンクーバー冬季五輪の日本での人気競技の1つ、カーリング女子で、日本代表「チーム青森」はスウェーデン戦で6-10とリードされた第10エンドの途中、ギブアップして敗北を認め、決勝リーグを前に敗退した。健闘していただけに残念だった。

 「それにしても、勝利を信じて最後の一投まで戦うのがスポーツ。ギブアップなんて情けない」と「にわかカーリング・ファン」の筆者も思ったのは、無知のせいだった。カーリングの試合では、ゲーム終盤で点差が開いた場合、潔く負けを認め、相手に握手を求めて勝利を称えるのがマナーなのだそうだ。なぜなら、大差を逆転するには、相手がよほど大きなミスを犯さなければあり得ないからで、相手の失敗に期待することこそスポーツマンシップに悖るという考え方。つまり自ら負けを認めるのは「ギブアップ」ではなく、ゴルフのマッチプレイでの「コンシード」と同じ意味なのだ。

 ともあれ、カーリングが単なる「氷上石転がし」どころか、細やかな感性と高度の技術を要求される極めてデリケートなスポーツであることが、試合を見るたびに分かってきた。氷の状態は、試合場の国や場所、リンクを作る人、場内の温度、湿度、ゲームが進む時間帯によっても、ストーンが滑るスピードや曲がり方が大きく変わってくる。リンク上の自分や敵のストーンの配置も万別だから、次に自分のストーンを、どこへどう滑らせ、当てるかの状況判断を、ミリ単位でも間違えると負けてしまう。

 その「状況判断」を今回、トヨタは誤ったのではないかと、米下院監督・政府改革委員会の公聴会に召喚されたトップの発言と対応が世界中から注目された。

 海外生産車のフロアマット、アクセルペダルの不具合に始まり、人気車種プリウスのブレーキの違和感、さらには他車種における急加速の苦情――次々に表面化している諸問題に対するトヨタの初期対応がもっと的確・迅速に行われていたら、豊田章男社長まで公聴会に呼び出される事態に陥っていたかどうか。国内外のユーザーにこれほど不安感を広げ、売り上げに深刻な影響を与えていたかどうか。

 米国における今回の「トヨタ叩き」の背景には、米政府が救済したゼネラル・モータース(GM)への追い風を企図した政治的戦略も透けて見える。しかし、その程度の「戦術」を読んだり対応ができずにいて、熾烈な国際競争に勝てるはずがない。

 自分の非や失敗、時には負けを率直に認める謙虚さが、経営者にも為政者にも大事だ。

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