コラム


  「欲しがらない若者たち」   No.455
 1冊は日経産業地域研究所研究員・山岡拓著「欲しがらない若者たち」、もう1冊はジェイ・エム・アール生活総合研究所代表・松田久一著「『嫌消費』世代の研究――経済を揺るがす『欲しがらない』若者たち」――書名がカブリながら昨年11~12月に相次ぎ発刊された両書が、最近の若者たちの消費の特徴を的確に捉えている。

 「車に乗らない。ブランド服も欲しくない。スポーツしない。酒は飲まない。旅行しない。恋愛には淡白。貯金だけが増えてゆく」――最近の若者の消費動向をそう集約するのは前書の山岡氏だ。なるほど「乗用車の主な運転者の年代」を見ると、「20代以下」は1993年には20%だったのが、2003年=10%、2007年=7%へと年々低下(日本自動車工業会「乗用車市場動向調査」)。「車を持っていないが、ぜひ欲しい」と思う人の割合も、2000年=48%から2007年=25%に大きく落ち込んでいる。

 車離れに限らない。ブランドの服や雑貨も、買おうと思えば買えないわけではないのに、買わない――そのように収入に見合った支出をしない若者たちを、後書の松田氏は「嫌消費層」と呼ぶ。買物が「嫌い」なのではなく61%が「好き」なのだが、消費行動には移さない。松田氏によると「嫌消費度」は、「年収200万円未満」の低所得層よりむしろ「300万~400万円」層のほうが高い点に注目しなければなるまい。

 いまの若者が目指すのは「実にまったりした、穏やかな暮らしだ」と松田氏。「動機の多くは景気変動ではなく消費トレンドでもなく、経済や社会の構造変化で、その動きは非可逆的。景気が回復しても、20代を中心とした若年層が、期待されたほどに『元気な』存在となることは、もはやないかもしれない」と続ける。

 「経済の循環からみれば、いずれ不況は回復するとはいえ、嫌消費層が増えている現在、これまで通りのやり方では先が見えない。嫌消費のバブル後世代の登場は、国内市場への再投資と市場戦略の再構築を迫っている」と松田氏。「いまの若者の後に続く世代も恐らくスローライフ世代になる。こうした変化は成長、そして成熟の帰結だ。我々は次の社会モデルを模索しなければならない時期に来ている」と山岡氏。

 「欲しがらない若者たち」への認識を強く求める両氏。だが、何をどう対応すべきかの具体的方策まで用意してくれているわけではない。そこは実業に携わるわれわれ自身が、これまで蓄えてきた知識・知恵・経験をフルに働かせ、活路を見出すしかないのだ。

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