コラム


 オンリーワン  No.451
 不況が引き続く今年の、正月3ガ日の初詣参拝客は去年より増えたのか、それとも減ったのか ――と興味を持って警察庁の発表を待っていたが、一向に音沙汰がない。照会してみると、「今年から公表をやめた」のだそうだ。「各寺社の発表する公称数字がアバウトで信頼性に欠けるから」と。えっ? 去年までの発表数字は何だったの?

 ともあれ、初詣に出向くと引いてみたくなるのが「おみくじ」。そのルーツは、天台宗の高僧・元三大師が平安時代に、中国で運勢や吉凶を漢詩に詠んだ「天竺霊籤」を元に発案したとされる。一喜一憂する吉凶の札が交じり合っている割合はおおよそ「大吉」15%、「吉」35%、「凶」30%らしいが、寺社によってバラツキが大きいうえ、最近は「凶」の割合を減らしたり、とくに正月は「凶」を除外している寺社もあると聞くと、なんだか知らぬ所でヤラセに乗せられているような複雑な気分がしないでもない。

 だからではないが、出雲大社や滋賀・多賀神社などの「おみくじ」に「吉凶」はなく、書かれているのは神様からのメッセージだけ。また明治神宮では「おみくじ」の代わりに、明治天皇、昭憲皇太后両陛下がお詠みになった和歌の中から、日頃の教訓として心に留めるに相応しい各15首を、「大御心(おおみこころ)」として昭和22年から授与している。

 そんな先々で「おみくじ」を引いた際、「あれ?」とどこかで買ったのとそっくりであることに気付いたなら、観察眼が鋭い。それどころかまったく同じ「おみくじ」を手にしても不思議でない理由は、「おみくじ」は、山口県周南市「二所山田神社」内にある社員6人の小さな会社「女子道社」が約70%の全国シェアで作っているからだ。

 女性参政権運動に取り組んでいた同神社の先々代宮司・宮本重胤氏が、機関紙「女子道」の発行費用を捻出するため、明治39年に会社を設立して「おみくじ」生産に着手。全国の寺社宛てに発送した機関紙上にその広告も載せたことが、それまで限られていた「おみくじ」を扱う寺社が全国的に広がるきっかけになった。同社製「おみくじ」は現在、全国5000余寺社で年間2600万体扱われているという。そう、「おみくじ」はご神体の言葉を記した札だから、数える単位は「枚」ではなく「体」なのだ。

 「小さなトップメーカーですよね」と、同社に取材の電話を掛けた受話器の向こうからは、「いえ、私どもにそんな意識はありません」の返事が返ってきた。なるほど。「“ナンバー1”でなく“オンリー1”を目指せば必ず『吉』」のご託宣と受け止めよう。

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