コラム


 「起きていることはすべて正しい?」  No.449
 彼女の信奉者を「カツマー」と呼ぶそうだ。彼女とは経済評論家の勝間和代さんのこと。当時史上最年少となる19歳で公認会計士の資格をとり、3つの外資系企業を経て経済評論家として独立、現在は新聞や雑誌、テレビ、ラジオに多くのレギュラーを持つ。

 これまでに執筆した本の販売部数は累計で300万部に上るという。これらの本は勝間さんに憧れ、彼女のように会社や組織に頼らず自立した生き方を目指す「カツマー」のバイブルとなっている。その中の1冊、「起きていることはすべて正しい」は彼女の座右の銘をそのままタイトルにした本で、こちらも20万部を超す大ヒットを記録している。

 しかし、この「起きていることは――」に異論を唱えるのが東レ経営研究所の佐々木常夫社長だ。自閉症の息子と、肝硬変とうつ病を患い3度の自殺未遂を図った妻の面倒を見ながら仕事と家庭を両立してきた佐々木氏は、あるコラムでこう書いている。「私は仕事も家族も決してあきらめないと言いながら、さまざまな場面でほとんどあきらめかけたことがあったし、少し間違えば、我が家は家族崩壊の道をたどっていただろう」「勝間さんは『起きていることはその人の能力や努力の結果であるから、いわば起こるべくして起きたことで、それはすべて正しいことだ』と言うが、少し言い過ぎのような気がする。たとえば会社の社長や役員になった人など、なるべくしてなった人など多くはいない。そのことを目指しながら、しかもそこそこの能力もありそれなりの努力もしながら、結果が出ない人がどれだけたくさんいることか」

 うまくいかない人生を生きる人々を描いた短編集「再会」を10月に上梓した作家の重松清氏も「うまくいかない悩みを抱えているのは当たり前の時代。頑張ればいいことがあるというのは嘘。どんなに努力しても、ダメなことはリアルにある」と語る。

 勝間さんの本は成功するためのノウハウを説いた指南書だが、失敗や挫折した時にどう乗り越えるかはあまり書かれていない。だから愛読者の中には、実践しても思うような成果が上がらず、「私はダメな人間だ」と落ち込む人もいるという。ハウツーばかりを追いかけた結果、成功願望が強迫観念のようになって自分を見失ってしまうのだろう。

 たしかに人生は努力や意欲で掴み取っていくものかもしれない。しかし、うまくいくのもいかないのもすべて自己責任だと言い切ってしまっては身も蓋もない。うまくいかない自分と折り合いをつけて生きるのもまた、人生である。

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