「年号が享保から元文へと変わった年(1736年)、三井越後屋も顔負けという超安売り商法を実行し、大衆こそ永遠の上得意であることを実証してみせた1人の商人が登場した」――経営評論家・青野豊作氏が著書「『三越小僧読本』の知恵」の中で触れているのは大衆酒蔵の元祖「豊島屋本店」の話だ。 慶長元年(1596年)創業の豊島屋本店が江戸・鎌倉河岸(現・千代田区内神田町)に庶民相手の一杯飲み屋を開いたのは享保末期。開店はしたものの、不況のさ中で、客足は周辺の同業者と同様、毎日まばらだった。そこで店主・豊島屋十右衛門は、思い切った戦略に打って出た。客に出す酒の値段を、なんと原価まで引き下げたのだ。それだけでなく田楽など酒の肴も、どの同業店より安く、しかし味は落とさずに提供し始めたのだ。当然、客が押し寄せた。酒樽が毎日、十も二十も空になるほど賑わったという。 「なぜ原価で酒を出せるのか?」と周囲は首を傾げた。当然、からくりがあった。十右衛門は、毎日空になるその「酒樽」に目をつけたのだ。空になった酒樽は当時、物入れや腰掛など廃物利用の生活用品として重宝され、売れば結構高い値が付いた。その酒樽を売り本業の赤字を補うことによって儲けを生み出す方法を、十右衛門は思いついたのだ。日本の商業史における低価格戦略の、発想の原点がここにあった。 今年の注目された商品の1つに「低価格ジーンズ」がある。3月、ユニクロが「g.u.」ブランドで990円ジーンズを発売したのを皮切りに、5月にイトーヨーカ堂系ディスカウント店が980円、8月にイオン、9月にはダイエーが各々880円、10月には西友が850円と低価格競争に参加、ドン・キホーテは690円ジーンズまで売り出した。 OECD(経済協力開発機構)は先ごろ、日本の2011年の実質経済成長率を2・0%と予想した経済見通しを発表、消費者物価は09年から3年間マイナスと予想し、「デフレが続く」と明示した。実際、総務省が先週末発表した10月の全国消費者物価指数は前年同月比2.2%減となり、8カ月連続で下落した。円高の進行で輸入価格が下がれば、国内製品も巻き込まれてデフレが長期化する可能性が少なくない。 身を削りながらの低価格競争がエスカレートしている。生き残るのは容易ではない。しかし、「変わらないもの(不易)と、時代に合わせて変えるべきもの(流行)の見極めが大事」と言うのは、豊島屋本店の16代目・吉村俊之社長だ。歴史の重みに説得力がある。 |
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