コラム


 見極める眼を  No.437
 「八ッ場」と書いてなぜ「やんば」と読むのか? かつては1、谷川の流れが急な「谷場(やば)」だった 2、獣を追い込み、矢を射て猟をする「矢場(やば)」だった 3、猟の落とし穴が8つある「八(や)つの穴場(ば)」だった――由来に諸説はあるが、いずれも定かではないらしい。

 「八ッ場ダム」建設は、昭和22年の大型台風で利根川水系が氾濫、死者・不明者1930人を出す被害を受けたことへの治水対策と、首都圏の水がめとしての利水を目的に27年から工事が始まった。しかしその後、治水効果に疑問が出てきたうえ、首都圏の水需要も現在では足りていることから、「無駄な公共工事」と位置づけた民主党政権が工事中止の考えを打ち出したため、「いまさら何を」と地元の猛反発を受けている。

 現在すでに全体計画の7割まで工事が進んでいるため、現時点で中止すると、関係自治体への事業費の返還や地元住民への生活関連費の新規支出などによって、このまま完成させるより数千億円多いカネがかかる――などの理由から、工事中止に反対する声が少なくない。だからなのか、連日報道するマスコミの姿勢も、困惑する地元自治体や住民に同情的なスタンスに立った取り上げ方が、気のせいか多いように思う。

 しかし、「全体計画のすでに7割まで工事が進んでいる」という国交省の表現を、素直に受け取るのは危険らしい。なぜなら、それは「予定事業費の7割を現在までに使った」ということで、「あと3割で工事が終わる」という意味では必ずしもないらしいからだ。現に当初計画の2110億円から4600億円へとすでに倍増した事業費が、平成27年の「完成予定」までにさらに膨らむ可能性を、関係者の誰も否定しない。

 行政に翻弄される地域住民への事後対策に万全を期すことは当然として、国家百年の計に照らしてどうあるべきか考える視点を、為政者はもとより、マスコミもまたしっかりと持って、国民に是々非々を問うべきだろう。最近のマスコミの、「弱者の味方」面するだけで定見を持たないニュースの取り上げ方、報道の仕方に不安を覚える。

 「政権交代後は、政府の記者会見は大手新聞・放送など記者クラブ加盟者に限定せず、雑誌やネットジャーナリズムにも全面開放する」としていた民主党。しかしその約束が16日の首相就任会見で早々と破られたにもかかわらず、「公約違反」を取り上げた大手マスコミは1社もない。自身も「既得権益」を守ることに腐心してはばからないマスコミの報道に惑わされず、冷静に見極める賢さを、私たちは身につけなければなるまい。

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