コラム


 リスキー・シフト  No.427
 民主主義では、集団の方針はメンバーの合議によって決められる。ただし、その合議の結論は、メンバーの意見が平均的に集約されるものとは必ずしも限らない。

 「集団討議による意志決定は、一人での意志決定に比べて、常により冒険的な性格を帯び、危険な決定に偏る傾向がある」――1961年、独自の研究結果からそう唱えたのは米国の社会心理学者ストーナー(J.F.S.Storner)だ。こうした現象を彼は「リスキー・シフト(危険な意志転向)」と呼んだ。

 これを元に米国の心理学者ワラックとコーガンが、6人を1組とする数グループで実験をした。ある課題について、リスクは伴うがうまくいけば大きな報酬を得られる方法を採るか、それとも、安全だが報酬は少ない方法を採るかを、最初は6人別々の場所で考えさせ、個々の結論を出させた。その後、おなじ6人を集めて討議させ、全員一致による結論を求めた。すると、集団で討議して出した結論は、個人が出した結論より常にリスキーになっていることが分かった。ストーナーの説が実証されたのだ。

 では「リスキー・シフト」はなぜ起こるのか? 最大の理由は、集団の討議による結論は、それに関わった個人の責任が拡散されるため、よりリスキーな選択をし易くなることだ。「赤信号、みんなで渡れば恐くない」の意識が働くと言ってよかろう。

 また集団による討議では、自分より極端な意見が出てくると、自分の考えのほうが妥当性があることを訴えようとして、さらに極端な意見に走る傾向があることも指摘されている。とくにグループのメンバーの中にリーダー的役割を自認したり意識している人が居ると、一段と強い「リスキー・シフト」傾向が見られるという。

 これに対して、「コーシャス・シフト」と呼ばれる正反対の現象も指摘されている。集団での討論が「より冒険的」ではなく「より慎重」な結論が出される傾向を指すもの。「無理だ」「出来ない」という消極的意見が多数を占め、結論を先送りする雰囲気が醸成されてしまう。こうした「コーシャス・シフト」と先の「リスキー・シフト」を、合わせて社会心理学では「集団成極化(もしくは極性化)現象」と呼んでいる。

 「雀の千声、鶴の一声」の諺がある。ああだこうだと議論を重ねても話がまとまらず、結局、社長の一声で結論が出てしまうことが多い日本の企業社会。だが、そこには「リスキー」か「コーシャス」か、「偏り」が潜んでいる危険性を、知っておいてよかろう。

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