コラム


 誤 訳  No.422
 「永遠の恋人」オードリー・ヘップバーン主演の映画「ローマの休日」は、オジサン世代にとっては不滅のラブ・ストーリーである。何かの機会で観るたびにキュンとする思いを、男だから口にはしないけれど、実は胸の中でいつも感じている。

 しかし、この邦題の「ローマの休日」は「原題を直訳した一種の誤訳」で、「正しくは『はた迷惑な女王様』か『王族のスキャンダル』としなければならない」と評論家・呉智英氏が産経新聞のコラム「断層」(10日付)で書いている。原題の「Roman Holiday」は元々は熟語で、ローマ帝国時代の休日の娯楽として奴隷をライオンと戦わせて観戦した見世物に由来し、それが転じて「他人の迷惑を楽しむ、あるいは、面白いスキャンダル、という意味になった」もの。だから「王女様の楽しみがはた迷惑だ、という欧米の教養人ならすぐ分かるしゃれが日本人には分からない」と呉氏。

 知らなかった――というより「知りたくなかった」説だが、他方、知っておいたほうがよい「誤訳」も歴史の中にはあることを、元外交官・多賀敏行氏が著書「『エコノミック・アニマル』は褒め言葉だった――誤解と誤訳の近現代史」に書いている。

 「エコノミック・アニマル」は日本人を侮蔑する言葉として伝わっている。しかし、パキスタンのブット元首相が外相時代、この言葉を口にした時は「日本人は経済活動にかけては大変な才能がある。将来は立派な経済大国になるだろう」という意味で言っただけ。英語圏の記者は「アニマル」の意味をその程度に理解していたという。

 日本人のプライドを傷つけたもう一つ言葉は「ウサギ小屋」だ。EC(欧州共同体)の秘密報告書の中に「日本はウサギ小屋に住む働き中毒の国」と表現されていると知り、日本人が気分を害した。しかし、報告書の原文を起草したフランスでは、同じ規格の部屋を重ねた形の都市型集合住宅のことを俗に「ウサギ小屋」と呼んでおり、決して悪意はなかったと、多賀氏は当時の外交文書などを読み返しながら検証している。

 「国際社会における自己の位置づけについて今ひとつ自信がないというのが多くの日本人の気持ちだと思うが、不必要に自分の国、自分の国民を貶める表現を相手の言葉から好んで、場合によっては無理やり見つけて来ようとする傾向がジャーナリストの内にあり、しかもそれを読み手である国民が嬉しがる傾向があるとすれば、少しばかり情けない気がする」と多賀氏。マスコミも国民も、自覚自省すべき性癖かも知れない。

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