コラム


 ねじの話  No.421
 最近、車上荒らしで狙われる約4割がカーナビだそうだ。盗品を売りさばく裏社会で換金しやすいため、盗難は年間3万5000台近いという。純正品はもとより市販品でもダッシュボードにきっちり取り付けられたカーナビを、盗むのもかなり大変だろうと思うのは素人考え。プロの手にかかれば数秒で取り外せてしまうものらしい。

 カーナビは結構高額なうえ、盗難後も、登録されている自宅や勤務先、友人宅などの個人情報が悪用されかねない――というので最近、その取り付けを、市販の工具では歯が立たない特殊な「防犯ネジ」に取り替えるように業界団体が勧めている。

 さて唐突だが、いま私たちに、常に最も身近に存在する「物」は何か? ……もしかするとそれは、「ネジ」ではあるまいか。自分の半径1m内に存在するネジを数えたら、10個、20個では収まるまい。メガネをかけていれば、それだけですでに2個だし。

 人類が、広い意味での「ネジ」を生活の中に採り入れたのは紀元前2000年、アルキメデスの揚水ポンプの原理が最初と言われる。オリーブオイルの圧搾機に使われたのは同240年ごろ。馬具や鎧などの締め金具として「ネジ」が使われ始めたのはギリシャ時代で、さらに一気に広まったのは1770年代に起こった産業革命によるとされる。日本への伝来は、種子島銃の銃座に使われていたネジが最初との説がある。

 そんなネジの、日本での2008年の生産は321万トン(前年比3.8%減)、8980億円(同0.7%減)。景気後退下でも落ち込みが小幅にとどまっているのは、現代社会においてネジはすでに、いかなる状況下でも欠くべからざる存在になっているからだろうか。

 そのように、極めて重要なのに、その割には存在感がまるで地味なネジ。

 そのネジを、しかし一躍「人気者」に仕立てた人がいる。東京・虎ノ門の小さな老舗ネジ専門店・三和鋲螺の三代目・石井健友さんだ。07年秋にふと思い立ち、ネジの格好の着ぐるみを着た小さなキューピー人形「ねじキューピー」を遊び心で作って店に置いてみると、「可愛い」とすぐ売れた。そこでその後も少しずつ作り溜めながら売り始めると、そのたびにあっという間に売り切れ、昨年は累計1万個売れたという。予約も取り置きもネット販売もせず、店頭でしか買えない超地域限定商品なのにだ。

 「うちのような会社でもこれぐらいできるんだから、大きな会社が本気になれば、きっとすごいことができるんでしょうね」と石井さん。今日6月1日は「ねじの日」だ。

コラムバックナンバー

What's New
トップ
会社概要
営業商品案内
コラム
大型倒産
繊維倒産集計