コラム

 巨艦の舵取り  No.415
 「♪ドライブウエイに春が来りゃ イェイ イェイ イェイ イェイ イェイ…」という出だしを聴いて分かる諸兄ならきっと、こう歌い切れるだろう。「♪オシャレでシックな レナウン娘が ワンサカワンサ ワンサカワンサ イェーイ イェーイ イェイ イェーイ!」 軽やかなファッションのお嬢さんたちが、テレビ画面で踊っていた。

 1961年(昭和36年)、「日曜洋画劇場」のスポンサーCMとして登場した小林亜星作詞作曲の「レナウン・ワンサカ娘」は、間違いなく20世紀の日本を代表するCMソングの1つだった。当時の日本は、いまほど豊かではなかったが、弾けるような活気があったと、この歌を知る世代のほとんどがそう振り返るはずだ。

 「レナウン」は、わが国ファッション業界のかつてのトップリーダーであり、元気印の筆頭格。だからこそ、今月に入って表面化した同社の経営再建を巡る動きに、隔世の感の思いを抱きながら関心や注意を払う諸兄も少なくはあるまい。

 「レナウン」の業績不振は、昨今の消費不況が追い討ちをかけはしたが、それが主原因ではない。新ブランド開発やSPA業態など小売部門の育成に遅れをとったこと等々、10期以上続く事業展開のミスがあったというのが業界関係者の一致した見方だ。このため昨年3月新社長に就いた中村実社長は、不採算ブランドの廃止や本社ビル売却、人員削減などを柱とする再建計画を掲げ、取り組んでいた。

 しかし、それでもなお09年2月期の連結最終損益が122億円の赤字と前期の同80億円を上回る見通しになる中で、今回の経営陣の刷新問題は表面化した。今月初め、現在レナウンの発行済み株式の24.87%を保有する筆頭株主の投資ファンド「SPICA2号」が取締役3人を解任、代わりに同ファンドが推す3人を取締役として受け入れるよう株主提案したのに対し、会社側は先週、中村社長が相談役に退くなど取締役5人が総退陣、代わって北畑稔経営企画部長が社長に就任し、外部役員も迎える「新経営体制」を発表。来月開催の株主総会で択一を争う方向で進んでいる。

 最初は商標として、現在は社名に使われている「RENOWN」は、昭和天皇が皇太子時代に英国を訪問した答礼として1922年、エドワード英国皇太子(現ウィンザー公)が来日した際に乗ってきた超弩級の巡洋戦艦「レナウン号」にあやかるそうだ。

 今後の航海の、誰が舵を取るかは別にして、艦長が2人要らないことだけはたしかだ。

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