コラム


 マサツ ヲ オソレズニ  No.413
 「摩擦」――を辞書で引くと、最初に出てくるのはその物理学的な語釈だ。@こすり合わせること。すれ合うこと。A接触している二物体が相対的に運動し、または運動し始めるとき、その接触面で運動を妨げようとする向きに力の働く現象、またはその力(「広辞苑」)。ザラついた抵抗感があって、決して耳障りの良い言葉ではない。

 それなら、「摩擦(=抵抗)」がまったくない世の中って、一体どんなだろうか?

 山や丘は崩れ、地球はのっぺらぼうの平地になる。クギやネジで物を止めることができないから、建物は崩壊する。織物の糸が解け、服がバラバラになる。車や電車は車輪の回転が地面に伝わらないため動かず、逆に動いている車を止めることもできない。木と木をこすり合わせて火を起こすことも不可能。バイオリンの弦と弓で美しい音を奏でることもできない。そう、実は「摩擦」は、私たちの生活に必要不可欠なのだ。

 ただ、辞書で引くと「摩擦」には必ずもう一つの語釈が続く。B人間の社会関係で二者間の意見や感情の食い違いによって起こる不一致・不和・抵抗・紛争など。軋轢――と。最近は、前者の物理学的な意味より、人と人、社会と社会、国と国との間で生じる後者の「摩擦」のほうが、マスコミを通じて耳目に触れることが多い。

 こじれると厄介な、人間が関わるさまざまな「摩擦」。しかし、だからといって「摩擦」がないほうが平和で絶対的に良いと、言い切れるかどうかもまた疑問だ。

 ベアリング大手の日本精工(NSK)が昨年合わせて5回新聞に載せた企業広告「マサツシリーズ」が、昨年の日経広告賞に続き朝日広告賞を先ごろ受賞した。「読んで、共感した」といずれも評判が良かった中の、ある回の広告コピーはこうだった。

 「何やってんだ!→ やっぱりそれが言えず→ むしろこっちが気を遣い→ 言葉を選んで→ 冷静に注意→ 何も変わらない部下→ いっそ怒鳴ったほうがいいのだろうか?→ でも自分はそういうタイプじゃない→ 自分は自分のやり方で→ そう思っていたのに→ 本当はよく見られたいだけじゃないのか→ 急にそんな気がして→ 悩んで→ 悩んで→ 本気で向き合ってみようか→ そう決めて→ ついに今日→ 思い切って→  イケ マサツ ヲ オソレズニ→  機械の摩擦を減らす会社として。NSK」

 4月から管理職になられた諸兄へ。「摩擦」を避けていては問題は解決しない。部下や、時には上司とも、「摩擦」を恐れず正面から向き合う勇気が、互いを成長させるのだ。

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