ゲームの世界では将棋や囲碁、チェス、オセロ、五目並べなどは「二人零和(れいわ)有限確定完全情報ゲーム」というカテゴリーに分類される。つまり、2人で対戦し(=「二人」)、勝ち負けの和が零――つまり「引き分け」がなく(=「零和」)、ゲームに「終わり」があり(=「有限」)、サイコロやルーレットなどによる「偶然」が入り込む余地がなく(=「確定」)、相手の情報を互いに把握(=「完全情報」)して戦うゲーム、という意味だ。 これら「二人零和有限――ゲーム」は理論上、完全先読みが可能なゲームとされる。言い換えれば、対戦者双方が最善手を間違えない限り「先手必勝」か「後手必勝」、それとも「引き分け」になるかが、実は戦う前から分かっているのだ。将棋や囲碁は本来「先手必勝」のゲームだし、後手の最後の1手で相手駒を裏返すことができるオセロは「後手必勝」のゲーム。ただし――そう言いながら現実の勝負で理屈通りに運ばないのは、人間の先読み能力に限界があり、打つべき次の手を間違えてしまうからだ。 将棋が「先手有利」であることは、長年の戦績にも裏付けられている。日本将棋連盟の公式棋戦では、統計を取り始めた1967年度から2007年度までの41年間、先手番が勝ち越し続けてきた。その間の総対局8万61局で先手番の通算勝率は52.6%。 ところが、そんな将棋界に歴史的「異変」が起きた。先月末で終わった08年度の公式棋戦2340局では、後手番の勝率が50.2%と、史上初めて先手番に勝ち越したのだ。定説が、なぜ覆ったのか。「角道を止めないコキゲン中飛車など近年、棋士が序盤の戦い方に工夫を重ね、とくに後手番の作戦の幅が広がったことが勝率アップにつながったのではないか」と分析する羽生善治名人は、先手番での勝率が65%を占める。 瀬川晶司四段。プロ棋士になるための奨励会を年齢制限で退会させられたが、望みを絶ちがたく、61年ぶりの編入試験を受けて合格、35歳で悲願を果たしてプロになった遅咲きの桜である。その著書「後手という生き方」で書いている。「(出世が)遅い人は自分より先に昇っていく人を多く見ているわけで、取り残される寂しさを知っている。でもその寂しい経験は、将来上司になったときに必ず生きてくるものだ。どんな経験をしても人生に損はないし、役立つことがあると私は信じている」 春はまた異動の季節。悔しさや憤りを、胸の奥深く押し込めている方もいらっしゃろう。でも、「後手」には「後手」の意地と戦い方がある。「がんばれ」と声援を送りたい。 |
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