先月破綻した北海道の老舗百貨店「丸井今井」が札幌地裁に提出した「再生手続開始申立書」の中の「本申立てに至った経緯」の項には、「申立人が経営を破綻させた原因については、大きく三つの場面に分類することができる」とある。 過日の弊紙で同項の全文を掲載しているので詳細は省くが、要約すると@経営多角化の失敗と放漫経営が原因で負債が膨らんでいたところ、メインバンクの北海道拓殖銀行の破綻が追い討ちをかけた、A二度の再建計画を策定したが、結果的には再建に不十分な内容だった、B昨年後半からの急激な景気の悪化に伴い、11月以降の売上高が前年比85%程度にとどまり、想定外の勢いで資金繰りが悪化した――と書かれている。 丸井今井と同じく明治年間創業の老舗で、昨年11月に自己破産した桑名市の婦人服・呉服販売の「こんちう」と傍系の「フォーラム紺忠」の代表者が、津地裁四日市支部に提出した「破産手続開始申立書」を改めて読み返してみた。 破綻の原因について、こう書かれている。「昭和39年に最初の支店を出し、ピークの平成13年には販売代行店を含め31店舗に拡張。その後も洋装部門の新規出店などで売上は拡大した。しかし、本社ビルを新築した際の費用すべてを銀行からの借入で賄ったため、次第に資金繰りに追われるようになり、さらにその負担を売上増で解消しようととった多店化戦略が、結果、借入と経費の増加に拍車をかけた」。 そして、「多店化と同時に売上と支出のバランスが徐々に崩れていきました。しかし、多店化している間は、出店のための借入は積極的な投資に当たるので、私はそのことに気づきませんでした」と同申立書の中の「陳述書」で代表者は述懐している。 目先の繁栄に目を奪われ、無謀な多店化が破綻につながったわけだ。 江戸時代に書かれた「商家秘録」に「船に乗るには三つの慎みあり。第一に油断、第二に不功、第三に不敵なり」という格言がある。これは「船は油断をすると暗礁に乗り上げたり、航路を誤る。不功は未熟を指し、未熟ゆえに不確かな情報に惑わされ、臨機応変に対応できない。不敵は身のほど以上の無謀なことをすると失敗する」という意味である。当時の米相場の心得を説いたものだが、この教えは企業経営にも通じよう。 景気の悪化はまるで底なし沼のような有り様だ。しかし、視界不良の今こそ経営者は、「航路」を見誤って「船」が転覆せぬよう、三つの慎みを心に刻んでほしいと思う。 |
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