コラム


 二枚舌  No.403
 同僚が、不注意で骨折した。と言っても、砕いてしまったのは薬指の先端の小さな骨。「こんな場所の骨ならなくてもいいんじゃないかぐらいに普段は思っていたけど、キーボードを叩き辛くて困る」とボヤく。ただし、もともと十指を使いブラインドタッチで打つほど器用でもなかったから、大差はないんじゃないかと周囲は冷たいが。

 ヒトの身体には、長年の進化によって形や機能が縮小した「退化器官」や、すでに機能しなくなったものの辛うじて形をとどめる「痕跡器官」がある。

 「親知らず」や「足の小指」は「退化器官」である。本来は上下左右4本だった「親知らず」が全部残っている人は、いま日本人なら3割程度だし、最近は生えてこない人も珍しくない。食べる物が柔らかくなり、奥歯をあまり使わなくなったためとされる。数千年前までは付け根を含めて3つだった「足の小指」の関節も、歩行機能が上達した結果、日本人では9割が2つに減り、最近は1つしかない人も出てきた。

 「痕跡器官」の代表は男の乳首だろうか。ただし乳首は、ヒトも胎生期には乳腺に沿ってその原基が「男女」とも5つあり、最終的に女はホルモンの作用で一対が肥大化し、男はその痕跡が残るだけだが、まれに男でも思春期に乳が出ることがある。赤ちゃんを残して妻に先立たれた32歳の男が、乳をせがむ子供を自分の胸に押し付けていたら、徐々に胸が膨らみ、やがて、育てるのに充分な乳が出たとの報告もあるそうだ。

 「痕跡器官」ではないが、なくてもあまり差し支えない器官も、人間には残っている。例えば、開いた片手の親指と小指をくっつけると手首に浮き出てくる長掌筋(ちょうしょうきん)。しかし手首を曲げるのに必要な手根屈筋(しゅこんくっきん)が発達し、それだけで充分間に合うようになったため、最近では白人の15%、日本人でも3%ほどはなくなってしまった人がいる。

 ふくらはぎ部分の、頚骨(けいこつ)(すね)の横にあり、端が足首の外くるぶしを作っている太さ2cmほどの腓骨(ひこつ)も、進化の過程で体を支える役割の9割を頚骨に委ね、絶対不可欠な骨ではなくなったため、骨移植の際、スペアの骨として使われたりする。

 そして、「舌」。多くのコウモリや下等なサルの仲間には、舌が2枚あるものがある。この、舌の下にあるもう1枚を「下舌(かぜつ)」というが、実はヒトの舌の裏にも「采状ヒダ」と呼ばれる「下舌の名残りがある」そうだ(犬塚則久著「『退化』の進化学」)。ほほう。

 つまり、「二枚舌」が多い日本の政治家は、進化が止まった珍しい種族ということか?

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