コラム


 サンマの季節  No.381
 行きつけの定食屋の季節メニューに「サンマの塩焼き」が加わった。食べようと思えば年中食べられるようになったとはいえ、文字通り「秋刀魚」はこれからが旬。

 サンマには、脳細胞を活性化して学習・記憶能力を高めるドコサヘキサエン酸や、血液をサラサラにし血圧や中性脂肪を下げるエイコサペンタエン酸が多く含まれている。そのうえ栄養価が高く、かつ美味。秋の味覚を代表する1つと言ってよい。

 サンマといえば思い出すのが、明治の作家・佐藤春夫の詩「秋刀魚の歌」だ。「あはれ秋風よ 情(こころ)あらば伝へてよ/男ありて 今日の夕げに ひとりさんまを食いて 思いにふけると」で始まるこの詩は、「さんま さんま さんま苦いか 塩(しょ)っぱいか…」で有名な最終節へと続く。その、佐藤春夫が「苦い」と表現したサンマのはらわたを、さて諸兄は「食べる派」だろうか、それとも「食べない派」だろうか。

 他の魚と違って、サンマがはらわたまで食べることができるのは、サンマには胃がなく、食事から排泄までの時間が30分間程度と短いため、はらわたに食べカスや雑菌が溜まりにくいからだ。なので、獲れて間もない新鮮なサンマのはらわたはそれほど苦くなく、むしろほんのりと甘いくらいだという。

 ただ、そのはらわたが「最近マズくなってきた」と食通は言うらしい。漁法が、昔と違ってきたからだ。サンマ漁はかつて、回遊コースに「刺し網」を張って獲っていたが、近年は強力な集魚灯で集めた魚を一網打尽にする「棒受網」が主流。しかしこの漁法では、追い込まれてひしめく大量のサンマが狭い網の中で暴れ、もともと剥がれやすいウロコが互いの口に入ってはらわたに留まるため、雑味が混じってしまうのだそうだ。効率を優先すれば何かが犠牲になる――普遍の道理がこんなところにもあった。

 そして、サンマで思い浮かぶもう1つは落語「目黒のサンマ」だろう。目黒へ鷹狩りに出かけた殿様が、農家で初めて食べたサンマの旨さを忘れられず、後日、膳に出すように命じた。ところが、出てきたサンマは、味も見た目もサンマとは思えない代物。家臣が、サンマの脂は身体に悪かろうと脂抜きし、喉に刺さってはいけないと骨を全部抜いてしまったからだ。「これがサンマか? 一体どこで買って来たのか」「はい、品川の魚河岸でございます」「うーむ、だからか。サンマはやはり、目黒に限る」

 下々の暮らしを知らない殿様は、国会議事堂という現代城にも、居そうな気がする。

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