「秋葉原・無差別殺傷事件」の容疑者が犯行の数日前、今月末での契約更新打ち切りを通告されて暴れたとか、その更新打ち切り話は彼の誤解だったとか報道されたせいか、今回の事件の原因を、いまや日本の産業経済界全体に浸透した社員の非正規化―「派遣」問題と関連づける議論が、ネット社会を中心に広がっている。 まだ25歳の彼の心を大きく屈折させた不平不満の一端が、仮に「派遣ゆえの扱われ方」にあったとしても、それが今回の事件の直接・最大の「原因」とは思えない、と過日の本欄に書いた。しかし――。直接・最大の「原因」でなくてもその「背景」として、「派遣」に関わる今日的状況が影響していることまでは否定できなさそうだ。 総務省「労働力調査」によると平成19年末の非正規職員・従業員は1738万人。役員を除く総雇用者5156万人の33.7%を占める。その非正規職員・従業員の8.3%に当たる145万人が派遣会社に席を置く派遣社員。総数では少ないものの15年末比の伸び率では、雇用者が4.2%増にとどまっているのに対し、非正規職員・従業員は15.5%増、派遣社員は190.0%増となり、なかんずく派遣社員の大幅増が際立つ。 労働者派遣の対象業種は当初、ソフト開発など専門性の高いデスクワーク系に限られていた。それが1999年の法改正で原則自由化され、2004年3月からは製造業にも認められるようになったことが、以来とくに顕著な「派遣」増加の要因である。 とりわけ製造業が「派遣」を増やす最大の理由は「労務コストの削減」にある。しかし同時に、労働災害が万一発生した際、期間工やパート、アルバイトなど直接雇用の場合は避けられないリスク負担を派遣会社に転嫁できる点に利点を感じていることも、多くが暗に知るところだ。そうした雇用責任の負担の軽さが、ともすると派遣社員に厳しい労働条件を強い、それへの不平不満が彼らのストレスを高めて今回のような事件を生む「背景」になっているとの指摘を、さて笑って聞き流せるかどうか。 父親が秋葉原事件の容疑者と同じ会社で働いているという若者が、ネットに書いていた。「在庫を抱えず必要なものだけを下請けから取り寄せるカンバン方式が有名だが、人間までもがカンバン方式なのだ。人間としてみなされていない人は、他の人も人間としてみなさない。凶行の背景には、凍えるほどの孤独が生み出す負のスパイラルがある」 そんな日本の未来は幸せなのか?――共に背負う課題として考えるべきではないか。 |
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