コラム


 シートベルト  No.372
 「びっくりした。公務員たる者は国民から疑念を抱かれるようなことは一切すべきではない」――いわゆる「居酒屋タクシー」問題で、福田首相は感想をそう述べた。もし筆者が槍玉に上げられた役人なら、それを聞いて、心の中でこう呟いたかも知れない。「あなたにはそう言われたくないよ」と。なぜなら朝日新聞「首相動静」欄によれば、福田首相の公邸帰宅時刻は10日=20時22分、11日=21時39分、12日=20時47分。日本中で最も勉強し、最も働いてもらわなければならない「超多忙」なはずの首相のご帰宅は、連日、深夜タクシーなど不要の、意外に早い時間帯なのだから。

 とはいえ、驚く。深夜の帰宅タクシー内でジュースや缶ビール、挙句は現金や金券まで受け取っていた役人が、当初は13省庁502人、1万2400回、その後に厚労省の18人、340回も加わるほど多くいたと聞いて。というより、本当にこれで全部なのか?

 さらに驚くのは、調査に対してこうした回答がすんなり出てきたことだ。隠蔽を是認するわけでは決してないが、自主申告しなければ分かりようがない「密室」でのやりとりをあっさり認めたのは、もしかすると、「はい、お言葉に甘えて受け取りましたが、それが何か?」とでもいうような、当人たちには後ろめたさが、そもそもないからではないかとさえ思えてしまい、だとするならば、もう呆れて物が言えない。

 現金・金券を渡した個人タクシー側に道路運送法違反の疑いがあるなら、そんな過剰サービスを諾々として受け取っていた役人はその幇助ではないかと思うし、いつも同じ個人タクシーを携帯で呼んでいたのは、特定業者に対する明らかな「利益供与」であり、国家公務員倫理規定違反に当たりはしないかと、素人考えでは思う。

 中でも財務省主計局の30代係長は、乗るたびに現金数千円を5年間で750回、計187万円余ももらっていたそうだ。庶民とはかけ離れた生活感覚・金銭感覚を持つ人間が、私たちの国の予算を差配する中枢部で働いていることに落胆する。

 道交法が改正され、今月から車の後部座席でもシートベルト着用が義務付けられた。

 中央省庁の役人の多くは、予算編成時や国会会期中には帰宅が連夜、深夜1時、2時にもなると聞けば、同じ働く者の仲間として「ご苦労さま」と労いたい。けれど、そのうえで思う。疲れ果てたその身を沈める後部座席では、受けてよいサービス・いけないサービスをきちんと分別する「心のシートベルト」も、しっかり締めて乗ってほしいと。

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