「美顔」「痩身」「脱毛」――「エステ」はすでに女性の専売特許ではなくなった。1970年代から盛んになったといわれるエステティックに「男性版」が登場したのは20年ほど前。デルタ・アイ・ディ総合研究所の調べによると、エステサロンの市場規模は07年度は4013億円で前年度比0.9%の微増にとどまったが、その内訳は、女性向け2388億円(同0.6%減)に対して男性向けは379億円(同14.0%増)と、両者の伸びは対照的だ。同研究所では、市場規模は10年度まで毎年1%台で成長すると予測しているが、それを牽引するのはメンズエステである。外見を気にする男性は明らかに増えている。 ベストセラー「人は見た目が9割」(新潮新書)の中で著者の竹内一郎氏は、アメリカの心理学者アルバート・マレービアン博士の「人間が伝達する情報の中で、話す言葉の内容そのものが占める比率は7%に過ぎない」という実験結果を引き、「私は言葉より<見栄え>の方が、よりその人の本質を表していると考えている。一生使える<見栄え>を身につけた方が得だ」と書いている。 「オタク」についての造詣が深い評論家の岡田斗司夫氏は、社会の風潮が「見た目主義」になっていることを、身をもって実感している。以前の岡田氏は体重117sの巨漢。それがわずか1年で67sにまで減った。ダイエット法の解説は著書「いつまでもデブと思うなよ」(同)に譲るが、痩せてからの岡田氏に対する周囲の目は大きく変わった。取材をされると、掲載される写真やスペースが以前より大きくなった。教鞭をとる大学の講義では、それまで後ろの方の席で聞いていた生徒たちが前の方で授業を受けるようになった。「今までと同じレベルの仕事をしていても、評価がワンランクもツーランクも上がった気がする。見た目が悪いと、いい仕事をしても評価されないのだ」――。 「家柄や学歴、経済力といった価値観の変遷を経て、<見た目第一>の価値観はこの10〜15年で急速に定着した」と岡田氏は語る。確かに、実力がすべてのはずのスポーツ界では、見栄えがする選手は実力以上にもてはやされ、集客力や視聴率に大きな影響を与えているし、政治家ですら見た目の良し悪しが支持率を左右する要素の一つになった。 「人を外見で判断してはいけない」という教えは今でも正しいと思う。しかし「見た目主義」という、外見で中身や仕事の実績まで評価される「物差し」が確実に日本社会に浸透してきたこともまた、受け止めねばなるまい。是非はともかくとして……。 |
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