黒板に書いても粉が飛ばない「ダストレスチョーク」で国内トップシェアを誇る日本理化学工業(川崎市)は、障害者を積極的に雇用している。同社の大山泰弘社長はある日、何度も失敗を繰り返す障害者に対して、つい「施設に帰すよ」と口走ってしまった。彼らは泣いて嫌がった。施設にいるほうが楽なはずだと思っていた大山氏は不思議に思い、ある禅寺の住職にこの疑問をぶつけたところ、「人間の究極の幸せは、物や金でなく、人に愛されること、褒められること、役に立つこと、必要とされることの4つである。愛はともかく、あとの3つは仕事を通じて得られるものだ。働きたいと願うのは、本当の幸せを求める証なのだ」という言葉が返ってきた。 住職の言葉を聞いた大山氏は、「人間にとって生きることとは、誰かに存在を認められ、評価されることなのだ」と悟り、自分の使命は「社員を評価し、幸福を実感できる場を提供することだ」と、その後障害者雇用に積極的に取り組むようになったという。 自然科学研究機構・生理学研究所の定藤規弘教授らの研究グループは先日、他者から褒められた際の脳の動きを初めて捉えたと発表した。平均年齢21歳の男女19人それぞれに「信頼できる」「やさしい」など84種類の褒め言葉を見せて血流の変化を調べたところ、脳の中心部にある「線条体」の血流量が増加したという。線条体は金銭などを受け取ったときに反応する部位である。つまり人間の脳は、高評価を受けた時、金銭報酬を受けたのと同じように反応することが明らかになったのだ。 俳優・仲代達矢氏と黒沢明監督のエピソードを読んだ。仲代氏が20歳の時、「七人の侍」に通行人役で出演した際に「歩き方が悪い」と黒沢監督から何度もやり直しを命じられたのは有名な話。朝9時のテスト開始から午後3時の本番まで実に6時間、ひたすら歩き続けた。ただ、これには後日談がある。その7年後、「用心棒」に準主役で抜擢された仲代氏は尋ねた。「監督、僕を覚えていますか」。黒沢監督は答えた。「覚えているから使うんじゃないか」。この時の仲代氏の感激はいかばかりであったろう。監督の一言で、俳優としての自信を深めたのは想像に難くないが、当時まったくの無名だった仲代氏の、俳優としての素質を見抜いた黒沢監督の「審美眼」にも恐れ入る。 「褒められる」「必要とされる」――評価は人を前向きにする。だがそれは、人それぞれの個性を見極め、才能を見出す「眼」が近くにあってこそである。 |
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