住民税の一部を、たとえば自分が生まれ育った故郷の自治体に納めることを認める「ふるさと納税」の創設を安倍内閣が提案し、議論が沸騰したのは昨年5月。当事者である納税者にも、どちらかと言えば珍しく賛成派が多かったように思えた発案に、しかし東京都をはじめとする大都市の首長はこぞって、「税における行政サービスの受益者負担という大原則に矛盾する」として一斉に猛反対した。都会に住む地方出身者がこの制度で「ふるさと納税」し、税収が減ることを恐れたからだ。 マスコミでも喧々諤々(けんけんがくがく)戦わされた議論が、いつしか下火になり、もう立ち消えになったものとばかり思っていたら、それどころか、先月末のガソリン税の暫定税率延長を決めた「税制関連法案」の中に実はこの「ふるさと納税」も含まれていて、今年度からスタートしていることを、まだ知らない国民も少なくないようだ。国の新しい制度が、こんなふうに見えにくい形でスタートしてよいものかと、大いに疑問に思う。 しかも、今回始まった「ふるさと納税」は、正しくは「納税」ではなく「寄付」と呼ぶべき姿に、いつの間にか変わっていた。つまり、住民税納税額の1割を最高限度として、自分の故郷や好きな地方自治体に対し「寄付」をした場合、寄付金額から5000円を引いた残額が居住地の自治体に納める住民税から控除される。ただし、控除を受けるには、寄付した自治体から領収書を貰い、地元の税務署に確定申告しなければならないうえ、住民税控除は翌年度になる――等々、かなり複雑な仕組みである。 納税者の好意で成り立つ「ふるさと納税」ならぬ「寄付」が、そんなに面倒な手続きを必要とする制度であってよいのかと思うが、それにも増して解せないのは、この問題を取り上げるマスコミがあまりにも少ないことだ。全国の新聞・雑誌記事を横断検索するサイトで調べてみた。すると、「ガソリン税」のキーワードを含む記事は1カ月間で2255件もヒットしたのに対し、「ふるさと納税」ではたった65件にとどまった。マスコミの関心の、「低さ」と言うよりは「無関心さ」が明らかに映っていよう。 事が始まってから問題の重要性を知り、騒ぎ出す――「後期高齢者医療制度」もそうだったではないか。後手々々は政府ばかりでなく、マスコミも不勉強すぎる。 情報過多時代――。ネットの発達もあり、「私たちは何でも知っている」と思うのは、どうやら幻想に過ぎないようだ。世の中の動きに、常に目を配り続ける必要を痛感する。 |
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