コラム


ハゲワシ  No.362
 日本人宇宙飛行士の土井隆雄さんが、日本初の有人宇宙施設「きぼう」の船内保管室を国際宇宙ステーションに設置する任務を終え、3月26日、無事帰還した。さぞお疲れだろうと思いきや、「できることなら、すぐにでも宇宙に戻りたい」という。中学時代から天体に興味を持ち、大学の研究仲間からは「星の王子様」と呼ばれるほど宇宙に強いこだわりを持つ、土井さんならではの言葉である。

 ところで、土井さんを乗せたスペースシャトル「エンデバー」が発着したケネディ宇宙センターは、フロリダ半島の東岸に位置する。干潟や水路の入り組む密林が広がり、周辺は大型の猛禽類やワニが生息する野生動物の保護区になっている。このため、過去にはシャトル離陸直後にハゲワシが外部の燃料タンクにぶつかる事故が起きている。このときは幸い断熱材は無事だったが、2003年2月の「コロンビア」の空中分解の原因が、断熱材の剥落だったことを考えれば、ハゲワシが大事故を引き起こす恐れもある。

 NASAにとってはやっかいな相手だが、しかし、食物連鎖の循環の中では重要な役割を果たす。ハゲワシは自分で猟をしない。上空から動物の死骸を見つけるか、ライオンなどの肉食獣が獲物をひと通り食べ終えるのを見計らって近づき、残り物をいただく。別名「草原のクリーンキーパー」と言われる所以である。彼らは、残された内臓まで食べるため、体の中に頭を突っ込む。ほかの鳥のように頭部に毛が生えていたのでは、血や骨片が付着し、寄生虫が発生しかねない。だから、ハゲているのだ。

 スペースデブリ=宇宙ゴミ。宇宙空間には、寿命の尽きた衛星やロケットの破片、使い終わった燃料タンクの自然爆発による飛散物など、総称して「デブリ」と呼ばれるゴミが、秒速8kmという猛烈なスピードで移動している。デブリの威力は凄まじく、1円玉くらいの大きさでも2cmのアルミ板を貫通させる。これらが活動中の人工衛星や宇宙船、宇宙ステーションなどに衝突すれば、場合によっては設備が破壊されたり、乗員の生命に危険が及ぶ恐れがある。実際、今回の「エンデバー」ではコックピット前方の窓に3〜5o大の傷が見つかったし、'96年に若田光一さんが同じく「エンデバー」のミッションで回収した日本の宇宙実験室には、500個近くの衝突痕が確認されたという。

 4500トンを超えるとも言われるスペースデブリ。地上と同じように、ゴミの減量・回収には人間の知恵が必要である。宇宙には、ハゲワシのような掃除屋はいないのだから。

コラムバックナンバー

What's New
トップ
会社概要
営業商品案内
コラム
大型倒産
繊維倒産集計