コラム


報道されない「現実」  No.356
 「独居老人、絞殺される」「幼児を虐待、放置して死なす」――暗いニュースを見聞きしない日がない。殺人事件がさぞ増えているだろうと誰しも思う。ところが。

 警察庁が今月1日に発表した「犯罪統計資料」によると、昨年1〜12月に発生した「殺人」事件は1199件で、「戦後最低」だった。というより、「殺人」は平成15年の1452件から4年連続で減り続けているのだ。

 そればかりではない。では、「殺人」が戦後最も多かったのはいつか? 映画「3丁目の夕日」が「日本の古き良き時代」として描いた舞台は昭和33年だが、「殺人」が最も多かったのは実はその33年の2683件だった。昨年はその半数以下。しかも刑法犯に占める「殺人」の割合も、当時の0.19%から昨年は0.06%へと大きく減っている。

 にもかかわらず、この記録的な事実をニュースに取り上げた新聞・テレビを、少なくとも筆者は知らない。マスコミはなぜ扱わなかったのか? 諸兄もご賢察だろう。些細な出来事でもセンセーショナルに扱うことで読者や視聴率の目を引こうとする彼らにとって「オイシイ話題」ではなかったから、としか考えようがあるまい。

 論客・志位和夫共産党委員長が去る8日の衆院予算委員会で行なった質問が的確で格調高かったと、ネット上や、野党のみならず与党議員からも評価を受けた。

 質問の持ち時間50分の全部を派遣労働問題に絞った志位氏は、前半の質問で「派遣労働の活用は一次的、臨時的な需給調整で、常用雇用の代替にしてはならない」という政府の考えを確認した後、独自調査で得たという某大企業グループ内での派遣労働の厳しい実情を突きつけ、こう迫った。「政府が進めた派遣労働の規制緩和が、こうした、あってはならない現実を生み出していることに、首相、胸に痛みを感じませんか? 日本の物づくりを担っている労働者にこんな働かせ方をさせていて、日本の将来があると思いますか?」 志位氏の重い問いかけに、いつもはノラリクラリとかわして逃げる福田首相も「厚労省に実態を調べさせたい」と素直に答えるしかなかった。

 その質疑応答の内容や、志位氏から「違法」と指摘された企業が、御手洗冨士夫経団連会長が会長を努める「キヤノン」であることをきちんと報じたマスコミも、「赤旗」以外になかったはずだ。相手が大手広告主だから遠慮したのかと、勘繰りたくなる。

 マスコミが報じないことの中にこそ「現実」や「真実」があったりするのは残念だ。

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