コラム


「もみじ」 No.292
 紅葉前線が南下し、本州平野部では今週末あたりが一番の見頃だろうか。

 中でも、まだ瑞々しさを残す緑、輝く黄、鮮やかな赤の葉が入り混じった頃合の「もみじ」の、繊細で雅な風情がいかにも日本的で、美しい。

 ――と書いて何の違和感もないはずだが、実は、植物学上では「もみじ」という名前の木はないそうだ。俗称「もみじ」は、学名「Acer(かえで属=ラテン語で「裂ける」の意味) palmatum(「掌(てのひら)状の」の意味)」。それが日本では「蛙(かえる)手」から転じて「かえで」になった。その「かえで」の中でもとくに紅葉が美しいものを「もみじ」と呼ぶ、とか、盆栽の世界では葉先の切れ込みが5つ以上ある品種を「もみじ」と呼ぶとか諸説あるが、いずれも園芸上の俗説。英語では同じ「Maple(メープル)」で、区別はしない。

 語源は奈良時代、木の葉が秋に赤や黄に変わる様子を「黄(紅)葉(もみづ)る」と動詞で呼んでいたのが、平安時代に「黄(紅)葉(もみじ)」と名詞化したと言われる。

 「黄(紅)葉」と表記したのは、黄でも赤でも変色する木は全部「もみじ」だからで、正確に言えば黄葉するイチョウやカツラも「もみじ」だし、サクラだって秋には紅葉するから「もみじ」だと、言えば言える。現に、ご存知の文部省唱歌「もみじ」は「秋の夕日に 照る山 紅葉(もみじ)/濃いも薄いも 数ある中に/松をいろどる 楓や蔦は/山のふもとの 裾模様」で、歌詞中の「もみじ」を「もみじ」だけに特定して読むと意味が通らなくなる。結構科学的と言うか、本来の由来に正しく配慮された歌だったのだ。

 そんな紅葉の、メカニズムはこうだ。樹木は冬が近づくと、栄養分を幹に蓄えるため、葉と枝の間に「仕切り」を作り、葉を落とす準備を始める。すると光合成が止まり、葉の細胞の葉緑体の中にある緑の色素クロロフィルが壊れ、黄色の色素カロチノイドだけが残って黄葉する。さらに紅葉する木では、葉の細胞中にあった糖分が赤色の色素アントシアンに変わって紅葉する――という仕組み。

 花札では10月の絵柄は「もみじと鹿」。その鹿が、もみじを見ないでそっぽを向いていることから「シカトウ→シカト=無視する」の語源になったという。

 ライブドア前社長ホリエモンが、今月初めの被告人質問で宮内前取締役との関係を問われ、こう答えていた。「僕がお願いしてもシカトされることが結構あった」 どうやら彼は、紅葉を愛(め)で、深まりゆく秋に「もののあわれ」を感じるタイプではなさそうだ。

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