腕と足を互い違いに振って歩く――。われわれが普段無意識に行なっている歩き方は、日本に浸透して100年ちょっとしか経っていない。明治の文明開化の時代、富国強兵策と連動して学校や軍隊に西洋流の行進が採用されたことで広まったものだ。 では、江戸時代までの日本人はどんな歩き方をしていたのか。重心を低くし、上体を腰に乗せて、腕をほとんど振らずに歩いていた。腕を振っても、右足と右手、左足と左手を一緒に出していた。「ナンバ歩き」と呼ばれる歩き方だ。 能や歌舞伎、相撲や剣道など日本古来の武芸には今もその動きが残っている「ナンバ」の語源は、たとえば山の急斜面など「難儀な場」を行く時、膝に同じ側の手を当て、膝と肘を同時に延ばして進む姿に似ているからとか、諸説あって定かではない。 いずれにしても、ナンバ歩きは合理的だとされている。「捻らない」「踏ん張らない」「強く蹴らない」ことを基本にしているからだ。捻らないから、きものを着ても着崩れることはなかったし、また、身体に負担がかからず、動きに無駄がなかったため、江戸時代の飛脚には1日に200キロも300キロも走る強者がいたと伝えられる。 最近はさらに、ナンバ歩きが脳を活性化することも分かってきた。身体の右半分は左脳、左半分は右脳が司ることはご存知の通りだが、西洋流の歩き方では右脳と左脳の両方を常に働かせ続けることになる。しかし、ナンバ歩きでは、右手足を出した時、左脳は働くが、右脳はほんのわずか休憩できる。左手足を出した時には、逆に左脳が休憩する。一瞬に過ぎないが、そのリズムが脳全体の働きを高めるらしい。 こうしたナンバ歩きの特長を陸上競技に活かしたのが、2003年の世界陸上で200メートルの銅メダリストになった末続慎吾選手。周りの黒人選手たちが腕を大きく振り、長い脚を生かして走る中、彼は腕をあまり振らず、足もさほど上げずに走った。 ただ、同じ側の腕と足を振り出していたわけではない。右足が前に出る時、右腕を一瞬前に出す。そうすることで腰がぐっと前に出て、フォームが崩れにくくなる。ラスト50メートルでフォームが崩れ、スピードが落ちてしまうことに悩んでいた彼は、そうした身体の使い方をナンバ歩きから学び、採り入れたのだ。 温故知新。壁に突き当たった時、過去を探ることは解決策の1つ。もちろん、企業経営においてもだ。 |
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