コラム


 「骨なし魚」 No.156
 「骨なし魚」。小説の題名にありそうな怪しい魚にも思えるが、文字通り魚の切り身から骨を抜いて食べやすくした魚のことで、これが最近、話題になっている。

 魚は、高タンパク・低脂肪と栄養的にはバランスの良い食べ物だが、難点は骨を取り除く手間が面倒なこと。そこで、「骨なし魚」は最初、手が不自由になってきた高齢者の病院食向けに考えられた。それがいまでは、骨があることで魚を敬遠する若い層や子どもに受け入れられ、外食チェーンや学校給食、弁当、惣菜で利用され、食卓にも並ぶようになった。

 骨抜き作業はピンセットで1本ずつ、手作業で行われる。メーカー各社は、人件費の安い中国やタイ、ベトナムに提携工場を持ち、現地で水揚げされた魚や他国から運んだ冷凍の魚を、いったん半解凍して作業。その後、再び冷凍する。抜いた骨は、加工食品用のダシを取るために使ったり、肥料にしたりするなどで有効活用される。価格は、骨のついたままの冷凍魚とそれほど変わらない。

 「骨なし魚」が浸透しつつある背景にはもう1つ、ゴミ事情もある。魚の骨は確実にゴミになるため、主婦が骨のある魚を敬遠しがちなのだ。

 「まさに創意工夫の成果」と、「骨なし魚」の好調に胸を張る業界。市場規模はまだ200億円を超えた程度だが、秋には「骨なしさんま」を大々的に売り出す予定で、需要拡大に大きな期待を寄せている。

 だがしかし…きごうである。「骨なし魚」の浸透は、果たして喜ぶべき現象なのだろうかと考えてしまう。

 言うまでもなく日本人は、幼い子供時代から、小さな豆を箸でつまみ、魚の小骨を箸で取り除くという日々の暮らしの中で、指先・手先の器用さを、知らず知らず養ってきた。資源を持たない日本が、戦後、加工貿易という生き方に活路を見出し、ここまでの経済大国になり得たのは、箸文化による器用さのおかげに他なるまい。

 その加工部門を、コストが安いというだけで海外へ移してしまった結果が、いま日本が、もがき苦しんでいる不況の、根本的な背景ではないか。

 「骨なし魚」の便利さを喜ぶ前に、日本人の器用さが「骨抜き」になっていく怖さを考えたい。

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