「西郷隆盛」といえば、愛犬ツンを連れた東京・上野の銅像か、それとも教科書などで見た軍服姿の、いずれもふくよかな顔を思い出す。けれども、除幕式で銅像の顔を見た隆盛の妻イトさんは呟いたそうだ。「こげんな人じゃなかった」と。 隆盛本人が根っからの写真嫌いだったからとか、刺客に襲われるのを警戒した弟子たちが写真を撮らせなかったからなどと諸説あるが、いずれにせよ西郷隆盛の顔が写った写真は1枚も残されていない。銅像も教科書も隆盛の死後、政府に雇われたイタリアの彫刻師が、隆盛の弟と従兄弟の顔を足して2で割って描いた肖像画が元になっている。日本での「モンタージュ写真」のハシリと言えようか。 「えっ、嘘だったの?」と後で聞いて驚くもう1枚の「モンタージュ写真」は、50代以降なら誰もが見覚えのある「3億円事件」犯人の手配写真だろう。公開されたあの写真は、実は、捜査当局が重要参考人として注目した少年に似ている別の実在の人物にヘルメットを合成して作ったとの説が、真相は不明だが最近は有力なようだ。 ともあれ、写真合成技術の進歩を背景に一時は年間500枚前後も作られた犯罪捜査用の「モンタージュ写真」。しかし近年は、時代に一見逆行するかのような手書きの「似顔絵」が、むしろ多く用いられるようになっている。 「モンタージュ」による手配写真は、思ったより犯人逮捕に結びつかないことが分かってきたからだ。「モンタージュ写真」はリアル過ぎるため、見た瞬間の印象が少し違うだけで「別人」と判断してしまい、イメージをそれ以上広げない。その点「似顔絵」は、やや誇張して描くこともできるので特徴を伝えやすく、見た時にイメージが広がるうえ、記憶も長く残るため、通報による検挙率がよいのだそうだ。 そこで警察庁では犯罪捜査に「似顔絵」を積極的に採り入れる方針を決め、2000年に「似顔絵捜査員制度」をスタートさせた。2006年現在では「似顔絵捜査員」を全国に4321人(前年比256人増)配置、年間1万2915枚(同478枚増)の似顔絵を作成するとともに、「似顔絵データベース」を構築。これらの「似顔絵」がきっかけになった検挙は同年726件(同53件増)を数えるなど、着実に効果を上げている。 「モンタージュ」というデジタル的手法より、「似顔絵」という手作り感覚のほうが、人の心をより掴む――言うまでもなく犯罪捜査という味気ない世界の話に限るまい。 |
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