コラム


カマス理論 No.311
 人を襲うこともあるという気性の荒い魚、カマス。企業や組織を語る上でたびたび登場するのが、この魚の習性をとらえた「カマス理論」だ。

 水槽にカマスを入れ、その中にエサとなる小魚を放り込むと、鋭い歯で襲いかかる。次にその水槽に透明の間仕切りを設け、一方にカマス、一方に小魚を入れる。するとカマスは、エサを食べようとして何度も何度も間仕切りに体当たりを繰り返すが食べることができず、終いには諦めて、間仕切りをはずしても小魚を襲わなくなるというのだ。

 心理学者のセリグマンが試みたのは、犬に電気ショックを与える実験だ。犬は最初、電気ショックから逃れようと動き回るが、その動きとは関係なく電気ショックは一定の間隔で繰り返される。しばらくすると犬は、動き回ることをやめ、不快なその刺激が収まるのをじっと耐えるようになる。サーカスの象が、細いロープ1本で繋がれているだけなのに逃げ出さないのも、理屈は同じだ。子象のころに太くて頑丈な鎖に繋がれていたために、大人になって力がつき、その気になれば杭を引き抜き、ロープを引きちぎって逃げられるのに、そうはしない。犬も象も、諦めることを学習したのだ。

 これは人間社会でも同じだ。再三にわたる働きかけが一向に環境に影響を与えないとき、その働きかけを中止し諦めてしまうことを、心理学で「学習性無力感」という。浜銀総合研究所・主席コンサルタントの寺本明輝氏は、「無気力は伝染する。恐ろしいのは、個人で学習した体験が個人の中で伝染するだけでなく、それを体験したことがない人間まで疑似体験として伝染し、企業風土に影響を与えてしまうことだ」と指摘する。

 需要が減退し、市場が縮小すると、諦めムードが漂い、せっかく提案された新しい商品企画や販売手法に対しても、初めから無理な理由やできない言い訳を探してしまいがちだ。「何をしてもむだ」という無気力が蔓延してしまったら、その企業に未来はない。

 さて、「カマス理論」には続きがある。間仕切りをはずした状態で新たに別のカマスを水槽に入れる。当然新しいカマスは、小魚に襲いかかる。すると、それを見た最初のカマスは、まるで目が覚めたように猛然と小魚に襲いかかるそうだ。

 組織が停滞すると、思い込みや諦めを招く「仕切り」ができやすい。それを取り除き、活性化させるためには、新しいカマスを放り込むことも1つの方法だろう。人事の春は、小魚を襲わなくなったカマスを目覚めさせる絶好の機会でもある。

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